夕焼け小焼け
作詞:中村雨紅   作曲:草川 信
英訳:山岸勝榮©

Yuuyake Koyake
The Sky is Glowing with the Setting Sun
    
Lyrics: NAKAMURA, Uko
Music: KUSAKAWA, Shin
Translation: YAMAGISHI, Katsuei
( ©


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こちらにYouTube版が、また、こちにmp3の音源があります。
こちらで宗次郎による美しいオカリナ演奏が聴けます。

1.
夕焼け 小焼けで 日が暮れて
山のお寺の
がなる
おててつないで みなかえろう
からすと いっしょに かえりましょう

 


The sky is glowing with the setting sun;night is coming on.
The bell of the mountain temple
has just started to ring.
Let's go home hand in hand;
everyone,let's go home.
Crows join us in going home,
flying in the sky.

2.
 子供が
かえった あとからは
まるい大きな お月さま
小鳥が夢を 見るころは
空には きらきら 金の星

All the children went home after playing a lot.
And the huge,round moon came up,so dazzling.
When pretty birds have a dream at their cozy home,
Golden stars are all out,twinkling in the sky.



 

 夕焼け小焼けの里を訪ねて「夕焼け小焼け」日本人の自然観、生命観童謡の作曲家、草川信誕生

以下の文章は私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君の手になるものです。
興味深い比較ですので、同君の了解を得て、転載します。

山岸勝榮教授

今回は「夕焼け小焼け」を取り上げます。いつものように、山岸教授の御訳とGreg Irwin氏の訳を比較し、愚見を記します。Yahooボックスの「共有」にPDFファイル「訳比較 11 夕焼け小焼け」がございますので、そちらもご覧ください【下にpdfを借用;山岸】。

【「夕焼け小焼け」について】
 「夕焼け小焼け」は、七五調を主として、1番では夕暮れ時の情景を、2番では夜の情景をそれぞれ描写している童謡の一つです。
1番の「視点」は、外で遊んでいる「子供」が友人に向かって「鐘がなったからかえろう」と誘っているかもしれませんし、親が子に向かって「かえろう」と言っているとも解釈できます。意見が分かれる歌詞でしょう。
 2番における「視点」は、1行目「子供が」とあるところから、大人[子供の親]の「視点」と考えるのが自然ではないかと思います。
 
【「視点」の解釈】
 前述した「視点」における訳出の違いを述べてまいります。
 1番の「視点」は、前述の通り、読み手により解釈が異なると思われます。つまり、英訳には、読み手の解釈が様々な形で反映されるでしょう。山岸教授は、3行目と4行目をLet's go home hand in hand; everyone, let's go home./ Crows join us in going home, flying in the sky.とお訳しになっています。usを用いることで、「子供」「親」と特定することなく、原詞と同様に読み手に「視点」の解釈を委ねている御訳になっています。一方のIrwin氏は、Above us are the crows / Leading us back home againと訳しています。山岸教授と同様の訳出法と考えられます。しかし、4行目にNo matter where you roamと、一般の人を表すyouが使われているところは非常に興味深い点ではあります。
 2番の「視点」は、「子供の親」「大人」と考えられますが、これらを訳出する必要はありません。山岸教授は「第三者」からの視点としてお訳しになっています。それに対してIrwin氏は、興味深いことに、When we’re home all safe and sound(1行目)/ Warm and cozy in our beds(3行目) / We’ll sleep all through the night(4行目)と、1番の続きのように、1人称複数形を用いています。氏は1番と2番で「視点」が変わることにある種の違和感を覚えたのかもしれません。原詞の「流れ」よりも、英語としての一貫性を英訳に反映させたかったという意図があった可能性もあります。

【原詞に沿っていない英訳】

 山岸教授の御訳にも、Irwin氏の訳にも、それぞれ、原詞には沿っていない英語があります。それらを指摘し、そこから読み取れることを述べてまいります。
 山岸教授の御訳にあります原詞に沿っていない英訳は、主にリズムを合わせる働きを持っているということが言えます。例えば、1番4行目 flying in the sky、2番1行目after playing a lot、2番3行目のso dazzling、2番3行目at their cozy homeなどがそれにあたります。ただし、これらの補足的な英訳は原詞から想像出来うる光景を表しているということが言えます。つまり、多くの読み手[聞き手]が、こちらの御訳に納得をするのではないでしょうか。
 他にも2番2行目のcame upや2番4行目のoutも原詞には無い英訳と言えます。こちらもリズムに合わせるための訳出をなさったということが言えます。しかし、その働きだけでは無く、原詞には表されていない「述語」を表したものということが言えます。
 一方のIrwin氏の訳は、今回も「自由訳」と言えます。氏の「自由訳」における特徴の一つとして、押韻が挙げられます。具体的には、押韻のために、原詞には無い英語を付け加え、原詞の意味よりも英語としてのリズムを重視する訳出方法です。今回の「夕焼け小焼け」にも随所に脚韻が確認できます。そして、このほかにも、Irwin氏の「自由」な発想を反映させた英訳が散見されます。
 2番1行目にあるsafe and soundという表現は「無事に」という意味ですが、原詞には表されていないものを英訳したと言えます。実はこの表現は、新約聖書の「ルカによる福音書」(15:27)が出典です。この表現は、1番3〜4行目のThen the temple bells will call / No matter where you roamという箇所と、1番8行目のThey’ll know which way to goを受けたものと考えられます。子供がどこを歩こうとも鐘が呼んでいるし、カラスも道を教えてくれる。だから無事に帰宅できるということをIrwin氏は言いたかったのだと推測します。さらに興味深いことには、1番3行目〜4行目のほとんどは原詞に沿ったものではないということです。
 また、聖書の関連では、2番8行目のuntil the morning lightも聖書に出てくる表現の一つであります。ただし、聖書が出典ではありません。
 また、2番6行目にあるAnd dream of taking flightのtaking flightも原詞にはない意味が英語に反映されています。これは、おそらく原詞にある「小鳥」を2番5行目にあるようにBaby birdsと訳したことによって、訳出されたと考えられます。Irwin氏が訳した“Birds babies”は、「小鳥」というよりもむしろ「ひな」の方が近いニュアンスだと思います。だからこそ、「飛ぶ夢を見る」という歌詞が出てくると思われます。日本人は「小鳥」という語からは「生まれたばかりの鳥」は想像しないでしょう。

【小考察】

 唱歌・童謡の翻訳や、英訳の比較をしてはじめて、例えば今回の歌であれば、「視点」はだれか、「からす」は単数形で表すべきか否か、「小焼け」とはそもそもどのような意味か、などということを考えさせられます。それまでは、唱歌や童謡を無意識で感じていたように思われます。歌の翻訳や英訳の比較が、日本語を深く考えるきっかけになっていることは否めません。いかに母語を無意識で使っているのかということを痛感致します。
 山岸教授は常に忠実に原詞を訳出なさっています。リズムなどで語を加えざるを得ないときも、行間をお読みになり、多くの日本人が納得する英訳になっているということが認識できます。
 Irwin氏の英訳は残念ですが原詞には忠実ではありません。氏がたどる翻訳過程の「真実」は氏にしかわかりませんが、それでも所々に英語文化が反映されている訳に仕上がっていることは認識できます。今回は聖書からの出典表現が見られました。英語の根底にはキリスト教文化が存在しているということを示す好例だと思います。逆のことを言えば、日本人英語学習者が母語では無い英語を書く際には、かなりの訓練をしない限り、日本語の発想に基づく日本語的英語が出てくるはずです。
 英訳の比較を行うことで、両言語の発想法の「真理」に近づくことができるはずです。その真理を常に追い求めてまいります。

 平成25年8月29日
       大塚 孝一

「夕焼け小焼け」pdf

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