赤 い 靴
(Akai-Kutsu)
作詞:野口雨情
作曲:本居長世
英訳:山岸勝榮©
Red Shoes
Lyrics: NOGUCHI Ujo
Music: MOTOORI Nagayo
Translation: YAMAGISHI, K.©
無断引用・使用厳禁
英訳を引用する場合は必ず英訳者の氏名を明記してください。
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(詳細はこちら参照)
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(横浜山下公園内にある「赤い靴 はいてた 女の子」の像;山岸撮影)
(宗次郎による美しいオカリナ演奏→こちら)
1.赤い靴 はいてた 女の子
異人(いじん)さんに つれられて 行っちゃった
A pretty little girl with red shoes on has gone overseas
By her side a blue-eyed man from overseas
2.横浜の 埠頭(はとば)から 船に乗って
異人さんに つれられて 行っちゃった
The pretty little girl has boarded the ship
from Yokohama Pier
By her side a blue-eyed man from overseas
3.今では 青い目に なっちゃって
異人さんの お国に いるんだろう
The pretty little girl's eyes surely have turned blue by now
From the love of the kind foster parents who live overseas
4.赤い靴 見るたび 考える
異人さんに 逢(あ)うたび 考える
I always think of the pretty little girl whenever I see red shoes
I always think of the pretty little girl whenever I see a blue-eyed man
無断引用・使用厳禁
Copyrighted©
以下の文章は私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君の手になるものです。
興味深い比較ですので、同君の了解を得て、転載します。
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山岸勝榮教授
今回は「赤い靴」を取り上げ、山岸教授の御訳とGreg Irwin氏の訳を比較いたしました。いつものように、Yahooボックスの「共有」フォルダに比較用のPDFファイル「訳比較 12 赤い靴」がございます。ご覧ください【下にpdfを引用;山岸】。
【童謡「赤い靴」の「背景」について】
童謡「赤い靴」は、歌詞を読んだ[聴いた]だけで内容を完全に理解することは極めて難しいと思われます。それは、赤い靴を履いた女の子が異人に連れられた理由が歌詞に歌われていないことによります。実はこの童謡には「定説」があり、それによれば、歌詞にある女の子の親が、アメリカ人宣教師に女の子の養育を託したそうです(詳細はこちらhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B5%A4%E3%81%84%E9%9D%B4)。この事実が歌詞に歌われていないため、歌詞を十分に理解することは、日本人にとっても難しいことと言えます。
【原詞にないことを英語にする】
山岸教授は「赤い靴」の3番におきまして、この歌が歌っていない物語の背景を解説する英訳をお作りになっています。すなわち、From the love of the kind foster parents who live overseasという一行です。この歌の英訳には、赤い靴を履いていた女の子が異人さんに連れられた理由を明らかにする訳出が必要です。もしその部分を翻訳しなければ、英語圏の人々には納得できない英訳になるはずです。その点を山岸教授はわずか1行、たった11単語で訳出なさっています。
加えて、山岸教授がお訳しになったFrom the love of the kind foster parents who live overseasという一文には、英語文化における重要な要素が含まれています。まずはloveという語です。キリスト教文化における必要不可欠な語をお使いになることで、教授の御訳を見る英語圏の人々はより御英訳に共感をするはずです。もう一つは、kindという形容詞がfoster parentsに付いている点です。loveという概念の一部を担うkindは英語を真に理解するためには、必要な語であります。英語圏の文化に合わせた形で教授はloveとkindという語をそれぞれ訳出なさったと考えます。
また、山岸教授は「異人さん」をa blue-eyed manとお訳しになっています。英米人に見られる典型的な目の色を訳出なさっています。英米では、運転免許証などの身分証明書に目の色が表示されます。つまり、目の色は英語文化の特徴の一つです。英米の文化に合わせた御訳出と考えることができます。
一方、Irwin氏の訳に見られる氏独特の訳語は、例えば題名にあるRubyであり、1番3行目にあるin a long dark coatなどです。これらの訳語を加えた理由として、「英語的には詩の意味がもっと印象深くなるからです」とこちらのサイト(http://www.edu.dhc.co.jp/fun_study/kotonoha/kotonoha_vol._17_ruby_red_shoes1/)で述べています。
その他、脚韻を踏むために、氏独特の訳語を加えているところもあります。具体的には、2番のChilly was the air / A ship was waiting thereにおいて、airとthereが押韻しています。いずれも日本語にはない訳語です。Irwin氏の訳出法によく見られる技法と捉えて差し支えありません。
また、全体的に人や場所、ひいては読み手[聞き手]に情景を想像しやすくするために、形容詞を付けているという点も非常に興味深く思います。これまでIrwin氏が英訳した唱歌、童謡をいくつか見てきましたが、今回の「赤い靴」は物語性を強く感じる歌であります。氏の今回の英訳はどことなく小説を思わせるような情景描写のように感じます。
Irwin氏の英訳を見て、二点気になったことがございます。氏の訳には、suitcaseという単語が出てきます。この歌が作られたのは大正11年(1922年)です。その時代に果たしてスーツケースがあったかどうかは疑問が残ります。もし当時スーツケースなるものが無かったならば、Irwin氏は現代的に英訳をしたということが言えると思います。加えて、氏がforeignという単語を用いているのには少々驚きました。foreignという語はあまり人に対して用いるべきではない語ということは広く知られていると思います。もちろん直接「人」には使っていませんが、個人的にはforeignを用いた理由を知りたいところです。
【小考察】
山岸教授は、原詩に極めて沿った形で英訳なさっています。同時に、時に相手の言語文化、今回は英語圏の中核を担う語、具体的にはkindやloveを使うことで、英語圏の人々により説得力を与える御訳になっていることは、決して見逃してはならない翻訳技法であると考えます。このような訳出方法は一朝一夕で身につくわけではありません。しかし、そういう技法が存在すること、そしてそれを目指すことこそ、山岸ゼミ生が学ぶ点であると思います。ぜひ現ゼミ生には認識してもらいたいところです。
今回の山岸教授の御訳を比較させていただいたとき、ゼミ生が翻訳において目指す方向性の一つを見たように感じました。教授が諸処にてお書きになっているように、日本人が書く英語は日本語の発想が反映されがちです。それは日本人が日本語でものを考えているために起こることです。しかし、その“癖”は、正しい訓練によって徐々に減らすことができ、次第に英語らしい英語を、英語圏の人々を説得できる英語を使うことができるようになるはずです。現に山岸教授は今回の訳でそのことを証明されています。具体的にはkindやloveという語をお使いになっているということです。たった2単語かもしれませんが、キリスト教文化が根付いている英語文化においては、極めて重要な語であります。その語が今回の文脈で使えるか否かということは、英語文化が理解できているか否かを示す一つの基準になるのではないでしょうか。このような単語を適宜適所で用いることができるようになることが、ゼミ生が追い求めるべき目標であると確信しております。
Irwin氏の英訳は、今回も自由訳としては非常に興味深いものでした。山岸教授の御訳と比べますと原詞への忠実度という観点からは全く異なるものと言えます。しかし、このような比較を重ねることで、英語圏の人々がどのような発想に基づき詞を英訳していくのか、ひいては英語圏の人々のものの考え方が少しずつですが分かっていきます。
今後も日英の発想法の違いを訳の比較を通じて追求してまいります。
平成25[2013]年9月2日
大塚 孝一
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