柴田徹士(てつお)・小林清一・小西友七編 『アンカー英和辞典』(1972年初版)、『ニューアンカー英和辞典』 (1988年初版)の全面改訂版です。両辞典は、柴田先生を始めとする優れた先生方が、まさに心血を注いで編纂された、画期的な学習英和辞典として著名だと思います。
◆『アンカー英和辞典』(1972年初版)が世に現れるまでのエピソードについては、編者のお一人である小西先生が、「『アンカー英和』のこと」と題して詳細なエッセイを書いておられるので、そちらをご覧下さい。また、柴田先生に関しては、「広報おおち 8月号(1999年)」の「おおち人物伝(98)」に先生の評伝(本頁下段に引用)が、さらに、「大阪大学所有 貴重標本」には、『アンカー英和』に関する1頁が、それぞれ設けられていますので、そちらもご覧下さい。
そのような立派な辞典の全面改訂作業に、私が代表を務められるようになったことは、身に余る光栄であり、またそれだけに、力の限りを尽くし、誠を尽くして編纂作業に当たらなければならないという思いで一杯でした。(もちろん最善を尽くしましたが、思わぬところで誤解や勘違いを犯しているかも知れません。そのような箇所があればどうぞご教示下さい。)
幸いなことに、児玉徳美・立命館大学教授、貝瀬千章・明海大学教授のお二方が編集委員として全面的にご協力くださり、編集作業は充 実したものとなりました。
読者カードや私信を通じてお寄せいただいた、利用者の方々からのご高評は多数に上りますが、ある方は、「これほど血の通った辞書作りをしておられる方は、斎藤秀三郎以来ではないかと思っております」 とまで書いて下さいました。もったいないお言葉と恐縮しています。同じ方が、「語数の多さを求めず、語義をじっくり見すえたスバラシイ辞典だと思います」と書いて下さっている点にも光栄を感じます。主な書評には、「翻訳の世界」誌(1996、12)、「週刊ST」紙(1996、11、1)、「現代英語教育」誌(1997、12)、「週刊ST」紙(1997、3、7)、「The New Teachers' Magazine」誌(1997、4)、「図書新聞」紙(1997、4、5)、「時事英語研究」誌(1999、10)などがあります。その中でも、岡山朝日高等学校教諭・鷹家秀史先生からいただいた、「ここ数年、辞書作りが集団的な作業となり、斎藤秀三郎 『熟語本位英和中辞典』(大正4年)のように執筆者の個性が行間からにじみ出るような辞書が少なくなったように思われるが、この辞書はその意味で執筆者の心意気が感じられる数少ない辞書の一つと言えそうである」(「現代英語教育」誌、1997、2)というお言葉が身にしみてうれしく思われました。辞書家としての私の原点が斎藤秀三郎という明治の巨人の存在ですから (詳しくはここをご覧下さい)。
インターネット上での 『スーパー・アンカー』 評も忘れられません。「スーパーアンカー英和はよいですね。(中略)語法などの見やすさでは中辞典の中では群を抜いていると思います」と言って下さった方 (FMさま/2/28/99;http://web.archive.org/web/20030322063010/http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Gaien/1142/chat23.htm)、推薦参考書用学習英和辞典として、本辞典を挙げて、「スーパーアンカー英和辞典・学研 (これできまり)」 と評 してくださった方 (http://www2.nkansai.ne.jp/sch/fiesta/sankou.html)、「山岸勝榮教授のまさに傑作」と評してくださった方 (http://www.katch.ne.jp/~hi-naga/7.html)、「(英和辞典としては)超おすすめ」と評してくださった方 (http://web.archive.org/web/20010831093259/http://city.hokkai.or.jp/~sseminar/text/jisyoerabi.html)、「数ある学習辞典の中で一番『良い』ものは、と言われたら、現在のところ迷わずこれを挙げざるを得ない」とまで高評して下さった方 (http://ha2.seikyou.ne.jp/home/Q-Higuchi/dicts/dicej.htm)、その他、同辞典を高く評価して下さっている方が多くおられることに、私は無上の喜びと光栄を感じます。こうした方たちの評を果報として、今後とも誠実な、魂のこもった仕事をしていく決意です。初代編集主幹・柴田徹士先生を初めとして、同辞典に関わられた全ての方々もさぞやお喜びのことと思います。
本辞典で留意したことは多々あります。たとえば、多義語の横顔を 「プロフィール」欄で紹介しました。堅い英語には堅い日本語を、砕けた英語には砕けた日本語を、訳語や訳文として与えるように、スピーチレベルを可能な限り一致させるように努力しました。英語文化とキリスト教との関係を分かりやすく、「英語文化のキーワード」 と題したコーナーで解説したり、英語圏で日常性を有する諺を 107 採り上げて、 対話形式で、その用法と日英差を示したりしました。
付記:本辞典には、非売品ですが、「ことばと文化―理想の英和辞典をめざし
て」と題した8センチCDが用意されており、第1章「日本人の英語理
解」、第2章「自己主張はマイナスか?」、第3章「真の国際理解とは」、
第4章「理想の英和辞典をめざして」の4章構成で、私がその吹き込み
を行っています(収録時間13分36秒)。下がそれです。
お願い
私が関係した諸辞典に問題点があれば
どのような些細なものでも結構です、
下記宛てに是非ともお知らせ下さい。
検討の上、必ず善処致します。
山岸勝榮
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(英語辞典編集室宛てにご連絡ください)
柴田徹士(しばた てつお)
明治43年(1910)〜平成11年(1999)
柴田徹士の業績は、まず第一に多くの英文学者を育てたことがあげられる。そして正しい英語教育にも大きく貢献した。多くの教え子の中で著名な英文学者であり、大阪大学文学部長を務めた藤井治彦教授との対談集『英語再入門』は英語の正しい理解の方法を優しく説かれている。「正しい日本語を理解しなければ、正しい英語を理解することはできない」と言われる。まさに至言であり、百通を越える私へのお便りの中にも古文、中世、近代文の解釈にも触れられる内容が多い。この本の前半は柴田徹士の歩んできた道であり、後半は英語教育とすばらしい英文解釈の方法である。しかし、柴田徹士の名を一般に膾炙させたのは、なんといっても『アンカー英和辞典』の編集主幹としてである。昭和47年(1972)に刊行されたこの辞典は生きた英語の解釈を「明快」「親切」をモットーにした辞典で、一躍英語辞書のベストセラーになった。現在は版を改め『ニューアンカー英和辞典』となり、不思議なことに慶応大学の学生に一番人気のある辞書になっている。またこの辞書は日本の英和辞書に大変革をもたらしたものであると大きく評価されている。柴田徹士が単なる英語教育者というレッテルをはられず、英文学者といわれる所以はあの難しい英国の女流作家ヴァージニア・ウルフの生涯を掛けての研究である。平成3年(1991)、その研究の集大成として『小説のデザイン‐ヴァージニア・ウルフの研究‐』(研究社出版)を刊行した。柴田徹士は最後の著作『三点セット』で「自分は多くの友人知人に恵まれ幸福な一生を送ることができた。そして心血を注いだ仕事が『アンカー英和辞典』と『ヴァージニア・ウルフ』の研究である」と述べている。
数年前、郷里の丹生へやってこられ、東昭寺から先祖の墓碑を茨木市の総持寺へ移された。そのころのお便りに「『白砂青松と穏やかな瀬戸内海の美しさ』を是非とも取り返してほしい」また、「なつかしい『町田(まった)』『田面(たっざ)』という言葉も受け継いでほしい」と書かれていた。晩年人工透析を受けながら、健康の保持に努められたが、平成11年(1999)5月10日逝去された。(「広報おおち 8月号(1999年)」内「おおち人物伝(98)」より)
横浜ベイサイドマリーナ(遠景はこちらをご覧下さい)