10.『アンカー』に収斂(しゅうれん)した
          未完の『現代イギリス英語辞典』



目的:
 現代イギリス英語研究を主目的とし、『現代イギリス英語辞典』(A Dict. of Modern British English;仮称;全文英文)編纂および英米語比較研究をその主内容とする。
理由および計画:
 戦後のアメリカ英語志向を反映してか、我が国では現在数点のアメリカ英語辞典が刊行されているが、戦前戦後を通じて、イギリス英語だけを取り扱った辞典類は皆無である。しかし、文学・語学・経済・社会・法律等々の分野において、相変わらずイギリス研究をしている人々は多い。そのような現状を把握した上で、私はイギリス英語、特に現代イギリス英語を取り扱った特殊辞典の編纂を思い立ち、その一部はすでに昨年の4月から週刊紙The Student Times (ジャパンタイムズ社)に連載して来ている。
 今回の留学は、英国で最も著名な英語学者の一人である、ロンドン大学教授Randolph Quirk 氏の助言を仰ぎながら、その特殊辞典の編纂作業を進めることが主目的であり、併せて、更に深い英米語比較研究が推進される予定である。
私はこの方面での業績として次のようなものを持つ:
 『えい・べい語考現学―どこがどう違う?』(こびあん書房、1977)
 『車の英語考現学―ドライバーのための英語表現事典』(こびあん書房、1979)
 「えい・べい語ノート」(The Student Times 紙連載中)
 
「なぞ遊びに見る英米語の違い」(研究社「時事英語研究」誌;1981、3月号予定)
 その他


上記は昭和56年(1981年)1月8日、当時勤務していた法政大学に対して、私が提出した「海外研究理由書」の一部です。法政大学からの研修補助金に加えて、昭和56年度私立大学海外研修員として財団法人・私学研修福祉会からも研修補助金を頂戴しましたから、経済的には大いに助かりました。ありがたいことでした。
 予定通り、同年4月から ロンドン大学University CollegeのR. Quirk 先生(後日、ロンドン大学 Vice-Chancellor、また後年、英国学士院 the British Academy 院長、Sir Randolph Quirkとなられた)のもとで勉強させていただきました。音声分野に関しては、同じUniversity College音声学科のA.C. Gimson 先生にお世話になりました。英語を肌で感じた充実した時期であったと思います。英米語比較では、また、ケンブリッジ大学フェローのP. Strevens先生と、What's the Difference?―A British / American Dictionary (Harper & Row, 1973)の著者であるN. Moss 氏に特にお世話になりました。
 要点だけを言いますと、Quirk 先生には、協力者(著名なイギリス人辞書家お二方)までご紹介いただきましたが、その後、私自身が学習研究社の辞典編纂(具体的には、『ニューアンカー和英辞典』)に没頭する身となったために、上記『現代イギリス英語辞典』(A Dict. of Modern British English;仮称;全文英文)は未完に終わることとなりました。出版社として研究社が決まり、組見本(下の組見本2頁分を参照)まで出していただいたにも拘わらず、同社の幹部の方々にはまことに申し訳ない結果となりました。私一人で 「E」 項まで完了させたのですが、今その原稿は私の書斎の片隅で静かに眠っています(最下段の写真)。私の原点である斎藤秀三郎は『英和大辞典』 を「H」項の途中まで完成させて亡くなりましたが、私は「E」項までです。何か不思議な気持ちになります。ちなみに、留学中の成果は1981年4月から1984年2月まで、「時事英語研究」誌(研究社出版)に「イギリスの言葉と文化」と題した連載として長期にわたって記録し、のちに『イギリスの言葉と社会』こびあん書房刊、1984)として単行本化しました。
お一方はLongman Dict. of Contemporary English (初版 1978)で編集主幹を務められた Paul Procter 氏、もうお一方はThe Survery of English Usage 名誉研究員の Robert Ilson博士でした。最終的には、Ilson博士が協力を申し出て下さいました。】


「山岸君を送る会」(ロンドン留学)でご挨拶下さる
桂田利吉先生(故人;S.T.Coleridge研究の第一人者);
於・市ヶ谷私学会館;昭和56年冬

左から郡司利男先生(故人)、小出二郎先生、
堀口俊一先生(故人)

敬愛する高森正雄君夫妻;高森君とは
もう45年
以上の付き合いになる。
R. Quirk先生と (1981年[昭和56年]6月19日;
先生は何かをお願いしたあとでお礼を申し上げると
必ず“My pleasure.”
仰った。留学中は、一方ならぬ
お世話になった。


A Dict. of Modern British English (邦名 『現代イギリス英語辞典』)の組見本 (1)



A Dict. of Modern British English (邦名 『現代イギリス英語辞典』)の組見本 (2)


上記辞典の原稿(E項まで終了)


 『ニューアンカー和英辞典』に関わるようになって以来、私は上記イギリス英語辞典を未完のままにして来ました。同和英辞典に引き続き、『スーパー・アンカー英和辞典』編纂作業に没頭することになったため、いっそう多忙になりました。結局は、『現代イギリス英語辞典』に盛り込むはずであった言語情報の多くは、『スーパー・アンカー英和辞典』、その後の『スーパー・アンカー和英辞典』に盛り込むことになりました。『スーパー・アンカー英和辞典』に特に、他辞典に見られない有用な言語文化情報が収録されているのはこのような理由によります。
 あれから20数年が経過しました。留学中、およびその後に収集した情報の何分の一かは旧情報になってしまいましたが、イギリスとイギリス英語の本質はそれほど大きくは変わっていないと思います。おそらく、上掲の原稿が陽の目を見る日は来ないでしょう。大学教授としての本務を別にすれば、『アンカー』(英和・和英)に費やす時間とエネルギーがあまりにも大きいからです。いずれにせよ、研究社辞書部の方々、とりわけ池上勝之氏(元・同社社長)にはご迷惑をお掛けしました。改めてお詫び申し上げます。氏は、その後も「我が社の仕事にもぜひご協力下さい」と、声を掛けて下さることはあっても、結果的に私が放置した『現代イギリス英語辞典』への恨み言を口になさるようなことはついぞありませんでした。ありがたいことでした。また、Ilson博士に対しても、計画を完遂しなかったことに対して、心よりお詫び申し上げます。約束不履行に対する時効は来たでしょうが、今でもやはり気に掛かることです。


付記:最近、書類を整理していて、The Survery of English Usageが発行した「年報」(Annual Report 1981-2)を見つけましたが、その3頁目に次のような記述がありました。今となっては懐かしい年報です。(平成16[2004]年年312日記)
              
   In addition to his teaching at the Institute of Education, Robert Ilson participated in English lanugage
   teaching in UCL, and gave lectures at Brighton Polytechnic and at the University of Birmingham. He
   is now Consultant Editor of the forthcoming Reader's Digest Great Illustrated Dictionary and is col-
   laborating with Professor K Yamagishi on a dictionary of Briticism.