17.日本人英語学習者と
          過剰一般化による誤訳




本稿は、第6回言語学音声学国際会議 Linguistics and Phonetics 2002(通称 LP2002;平成14年[2002年]9月5日;於・明海大学浦安キャンパス)でのワークショップModelling the L2 Mental Lexicon: An Interim Report on the Meikai L2 Mental Lexicon Database Projectに使用した英文原稿の増補日本語版です。



0. 外国語学習者にとって、目標言語を習得する際の困難点の1つは、彼らが第一言語(母語)の干渉を受けるということである。その干渉の1つに、日本人英語学習者が犯す「過剰一般化による誤訳」(mistranslation resulted from overgeneralizing words and phrases)もしくは「 刷り込み語句の影響による誤訳」(mistranslation resulted from using words and phrases which remain imprinted on a person’s memory)と呼べる言語現象がある。
 具体例を挙げよう。日本人英語学習者は学習の初期の段階で、「どうぞ」「もちろん」「面白い」のような日本語を、“please”、“of course”、“interesting”と単純に結び付けて覚えてしまう。そうすると、その関係が絶対的なものだとして学習者の脳裏に「過剰一般化され」もしくは「刷り込まれ」、本来であれば、別の英語表現を用いるべきところでも、そのことに気づかないまま、それらの「過剰一般化された」もしくは「刷り込まれた語句」を正答と信じて用いてしまう。 日本人英語学習者にこの傾向があることは承知していたが、今回、明海大学外国語学部英米語学科1年生94を被験者として仮説検証を行ない、その傾向の存在の確証を得た。

1.   仮説とその検証 (hypothesis and its testing)
 1−1.仮説(その1) 日本人学生は日本語の「どうぞ」、「もちろん」、「面白い」にそれぞれ“please”、“of course”、“interesting”を直結させる傾向がある。

 1−2.仮説(その2) その傾向は学習者の英語力と相関関係があり、英語力の増進と共に、適切な語句を適切な場所で用いることができるようになる。
 1−1.の仮説(その1)を検証するために、明海大学外国語学部英米語学科1年生94名を被験者にして次のようなテストを行った。94名の内訳を次に示す。なお、被験者である1年生は入学時の2002年4月に実施されたTOEFL ITPを受験しており、その学年平均は369.5点である。

                          テスト実施期間(2002年6-7月)              

クラス 受験者 TOEFL- ITPクラス別平均
1年 19名 333.3
1年 25名 378.9
1年 I 25名 403.9
1年 25名 437.5
    計 94名

 

              実施テスト内容(下線部の訳出の適切性を検査する) 

 

日 本 文

1

(椅子を勧めて)どうぞお座りください。

2

「この鉛筆、借りていい?」「どうぞ。」

3

「鉛筆ありますか(=貸してもらえますか)。」「はい、どうぞ。」

4

「この席、ふさがっていますか?」「いいえ、どうぞ。」

5

(劇場・映画館などで人の前を通る時に)「すみません。」「どうぞ。」

6

(歌手を紹介して)それでは石川さゆりさん、どうぞ

7

「辞書をお借りしてもいいですか?」「もちろん、いいですよ。」

8

「お腹はすいてないだろうね。」「もちろん、すいてないよ。」

9

「オックスフォードとケンブリッジ、どっちを応援するの?」「もちろん、ケンブリッジだよ。」

10

そのミュージシャンは日本はもちろん、ヨーロッパでも有名だ。

11

父やウイスキーはもちろん、ビールも飲まない。

12

この物語はとても面白い

13

サッカーは面白い

14

ニューヨークは面白い街だ。

15

彼女はよく面白い冗談を言う。

 

                         正 解 

 

英語相当文

1

Please sit down. / Sit down please./ Do sit down. / Please have a seat. / Please take a seat. / Sit down. / Have a seat. / Take a seat.(特に最後の3例は音調によっては丁寧になる)

2

Can I use this pencil?”“Yes, sure. / Sure. / Go ahead. / Yes, of course. /Of course. / Yes, certainly. / Yes, help yourself.

3

Do you have a pen I can use?”“Yes [Sure]. Here you are.

4

Is this seat taken?”“No, help yourself.

5

Excuse me, please.”“Certainly. / Sure. (Go ahead.) / Go ahead. / OK.

6

Ladies and gentlemen, we present Sayuri Ishikawa.

7

May I use your dictionary?”“(Yes,) certainly. / (Yes,) of course. / Sure, go ahead.

8

You’re not hungry.”“No, I’m not. / No, thanks. / Of course not.

9

Which team will you root for, Oxford or Cambridge?”“Definitely, Cambridge. / Of course, Cambridge. / Cambridge, of course.

10

That musician is well-known not only in Japan but (also) in Europe.

11

My father never drinks beer, not to mention whisky.

12

This story is very interesting [amusing].

13

SoccerFootballis a lot of fun [enjoyable / exciting].

14

New York is a fascinating [interesting / exciting / attractive] city.

15

She often makes a funny joke.

   

1−1−1.1年B19名受験の結果(TOEFL ITP クラス平均333.3点)

クラス正答率

1.

 68.42%

19名中6名(31.57%)が上記に示した正答のいずれも使えなかった。

2.

 57.89

Here you are.で答えた者が4名(21.05%)いたが、ここでは不適当。

3.

 57.89

Pleaseで答えた者が2名いたが、ここでは不適当。

4.

     0

正解者は無であった。Come here [on]., Please., Sit here., No problem., No. Let’s sit here.など様々な誤答、または無回答。

5.

 15.78

わずか3名が正答を出した。残りは、You’re welcome., Cross me.などの誤答、または無回答。

6.

     0

正解者は無であった。日本の学生には馴染みの薄い場面。

7.

 78.94

Of course.で回答した者が多いが、この言い方は偉ぶっているように響く可能性がある点の理解ができていないようである。

8.

 21.05

Of course.で回答した者が7名いたが、Of course not.と否定語まで入れた者は皆無。この言い方も偉ぶっているように響く可能性がある。

9.

 36.84

Of course.で回答した者が7名いた。あとは、無回答が多数。

10

     0

正解者は無であった。ここでnot only ~ but (also)の構文を使う必要があることに気づく必要がある。

11

     0

正解者は無であった。ここで not to mentionを使う必要があることに気づく必要がある。

12

 78.94

8割の学生は正しく答えたが、strange, importantを用いた者もいた。

13

 26.31

意外と正答率は低かった。Good, existing(excitingの誤解であろう)で答えた者もいた。

14

 36.84

これも意外と正答率は低かった。Crazy, good, greatで答えた者もいた。

15

 26.31

これも意外と正答率は低かった。Cheer, niceで答えた者もいた。

1−1−2.1年G組25名受験の結果(TOEFL ITP クラス平均378.9点)

クラス正答率

1.

  100%

全員正解であった。

2.

   56

Here you are.で答えた者が5名、Here it is.で答えたが者2名いたが、ここでは不適当。

3.

   72

Yes, please.で答えた者が1名いたが、ここでは不適当。

4.

    8

正答率は低かった。No, please sit down., Please., No, you can seat., No, come on. No, here you are.など様々に答えているが、いずれも不適当。No, help yourself.と正答した者1名、“Could I take this seat?”“OK.”の形式で答えた者1名。

5.

   64

Yes, please., Please.で答えた者がそれそれ1名ずついた。あとは無回答か、誤答。

6.

    0

正解者は無であった。日本の学生には馴染みの薄い場面。

7.

   72

Of course., Of course, you can.で回答した者が多いが、この言い方は偉ぶっているように響く可能性がある点の理解ができていないようである。

8.

   56

Of course.で回答した者が7名(28%)いたが、Of course not.と否定語まで入れた者は皆無。この言い方も偉ぶっているように響く可能性がある。

9.

   60

Of course.で回答した者が7名いた。あとは、無回答が多数。

10

   12

正解者は3名であった。ここでnot only ~ but (also)の構文を使う必要があることに気づく必要がある。

11

    0

正解者は無であった。ここで not to mentionを使う必要があることに気づく必要がある。

12

   92

ほとんどの学生は正しく答えたが、funnyを用いた者もいた。

13

   76

約8割の者は正解を出したが、interestingを用いた者が4名(16%)いた。

14

   72

7割強の者が正解を出した。残りの者は無回答が誤答。

15

   52

半数強しか正答が出せなかった。あとは無回答か誤答。Odd, unique, goodで答えた者も数名いた。

1−1−3.1年I25名受験の結果(TOEFL ITP クラス平均403.9点)

クラス正答率

1.

  100%

全員正解であった。

2.

   88

Yes, you may.で答えた者が1名いたが、これはいかにも偉ぶっているように響く。また、Here you are.で答えた者が6名いたが、ここでは不適当。その他、Please.が1名、Yes, please.が2名いた。

3.

   68

Yes, please.で答えた者が4名いたが、ここでは不適当。その他、Yes, here., Yes, I do., Yes, I have.などで答えた者もいた。

4.

   16

正答率は低かった。No., No, please., Please., No, it isn’t.など様々に答えているが、いずれも不適当。

5.

   64

Please., Sorry., Don’t worry., Don’t mind., You’re welcome.と答えた者が各1名。あとは無回答か、誤答。

6.

    0

正解者は無であった。日本の学生には馴染みの薄い場面。

7.

   92

Of course.で答えた者が10名、Yes, of course.で答えた者が4名、Sure, of course.で答えた者が2名、その他、Sure, here your are., Of course, you can.などで答えた者もいる。Of courseを用いた答え方は偉ぶっているように響く可能性がある点の理解ができていないようである。

8.

   72

Of course.で回答した者が5名いたが、Of course not.と否定語まで入れた者は2名、Of course, I’m not hungry.と答えた者2名。いずれの言い方も偉ぶっているように響く。

9.

   40

Of course.で回答した者が11名いた。completely., certainly.,absolutelyと答えた者が各1名。あとは、無回答が多数。Definitelyを用いられたものは皆無。

10

   56

ここでnot only ~ but (also)の構文を使う必要があることに気づいたのは半数強。Not as…but also, as well as,, of courseなどを用いたものも少数いた。あとは無回答。

11

    4

neither …norの構文を使用した学生1名を正解者にしたが、意味的には、not to mentionを使う必要があった。

12

   88

約9割の学生は正しく答えたが、funnyを用いたものが4名、funを用いた者が1名いた。

13

   48

正解者は約半数にとどまった。Excitingを用いた者3名、funを用いた者6名、fantastic, enjoyableを用いた者各1名、interestingを用いた者4人、その他であった。チェスのようなゲームであれば、interestingも可能であろう。

14

   80

Interestingを用いた学生が多く17名、attractive, exciting,niceが各1名、interestを形容詞として用いた者2名、interestedが1名いた。

15

64

正しくfunnyを用いた者16名、interestingを用いた者3名、nice, unique各1名、その他であった。

1−1−4.1年J25名受験の結果(TOEFL ITP クラス平均437.5点)

クラス正答率

1.

  100%

全員正解であった。

2.

   84

Here you are.で答えた者が2名いた。ここでは不適当。Pleaseで答えた者も1名いた。

3.

   60

Yes, pleaseで答えた者が24名いたが、ここでは不適当。

4.

   20

正解者は少なかった。Please sit down.と答えた者6名、Please.と答えた者1名、You can.と答えた者4名、 No problem.と答えた者3名ほか、You can take it., You may sit down., Here you are.と答えた者各1名。その他は無回答である。

5.

   80

8割の者は正解を出した。Yes, please.と答えた者3名、Don’t mind., You’re welcome.と答えた者各1名。

6.

    0

正解者は無であった。日本の学生には馴染みの薄い場面。

7.

   88

約9割は正解を出したが、Of course.で回答した者4名、Of course, sure.2名、Of course, please. Of course, you can.各1名というように、日本語の「もちろん」に引かれてof courseを用いるものが多い。Of course用いた言い方は偉ぶっているように響く恐れがある。

8.

   72

No, I’m not.と答えられたのは4名、Of course not.が3名、Of course.が3名、No, of course not., Yes, I’m not hungry.が各2名、No, of course.が1名、No, I’m not hungry.が1名、Of course, I’m not hungry.、その他である。Of course用いた言い方は偉ぶっているように響く恐れがある。

9.

   64

Of course,Cambridgeと答えた者が17名。Certainly.で答えた者が1名いた。あとは無回答か、誤答。

10

   56

ここでnot only ~ but (also)の構文を使えたのは14名。残りは誤答。

11

   40

neither…norの構文を使用した学生10名を正解者にしたが、意味的には、not to mentionを使う必要があった。後者を使用した者は皆無。

12

  100

全員正解であった。

13

     80

excitingを用いた者12名、funを用いた者7名、interestingを用いた者4名、その他である。チェスのようなゲームであれば、interestingも可能であろう。

14

   84

excitingを用いた者5名、uniqueを用いた者4名、interestingを用いた者11名、 その他nice, marvelousなどを用いたものもいる。

15

   88

約9割の者は正解を出せた。Good, unique, niceを使うものも各1名いた。

1−1−4 総合判定 以上の4クラス(計95名)分のテスト結果を通じて、次のような総合判定が下せる。
) (椅子を勧めて) どうぞお座りください。
  (訳)→Please sit down. / Sit down please. / Do sit down. / Please have a seat. / Please take a seat. / Sit down./ Have a seat. / Take a seat.(最後の3例は音調によっては丁寧になる)◆(解説)誤答例なし(無回答数名);この用法は日本人学習者にとっては容易なものであり、この「どうぞ=please」の結びつきが他の「どうぞ」にも影響を及ぼしている。

2)「この鉛筆、借りていい?」「どうぞ。」 
  ()→“Can I use this pencil?”“Sure. / Go ahead. / Of course. / Yes, help yourself.(解説)Please.”で答えた学生が2名(組、J組に各1名),Yes, please.”が同じく2名いた(I組、J組に各1名)。これは明らかに「どうぞ」を“please”と直結させて覚えたために犯した誤りである。“Yes, help yourself.”で答えた学生は皆無。

3)「鉛筆ありますか(=貸してもらえますか)」「はい、どうぞ
  ()→“Do you have a pen I can use?”“Yes [Sure]. Here you are. (解説)受験者総数94名中、2名(B組)が“Please.”で、8名(I組、J組各4名)が“Yes, please.”で答えた。両者を合わせると、94名中10名、10.6%の学生が、ここでも、「どうぞ」を“please”と直結させて覚えたための誤りを犯している。

4)「この席、ふさがっていますか?」「いいえ、どうぞ」
  ()→“Is this seat taken?”“ No, help yourself. / No, go ahead.(解説)受験者総数94名中、“No, please.”(G組3名、I組4名)とか“Please.”(B組2名、G組3名、J組2名)と答えた学生が14名、“No, please sit down.”と答えた学生が9名(うち1名は“Please sit here.”と回答)がおり、両者合わせると全体の24.46%がここでも、「どうぞ」を“please”と直結させて覚えたための誤りを犯している。“No, help yourself.”で答えた学生は1名(G組)であった。

5)(劇場・映画館などで人の前を通る時に)「すみません。」「どうぞ。」   
  ()→“Excuse me, please.”“Certainly. / Sure. (Go ahead.)/ Go ahead./ OK..◆(解説)Please.”または“Yes, please.”と答えた学生がそれぞれ4名(前者B組1名、G組2名、I組1名;後者G組1名、J組3名)、すなわち計8名(8.5%)はここでも、「どうぞ」を“please”と直結させて覚えたための誤りを犯している。そのほか、“You are welcome.”と答えた学生が4名いた。     

6)(歌手を紹介して)それでは石川さゆりさん、どうぞ
 (訳)→ Ladies and gentlemen, we present Sayuri Ishikawa. (解説)受験者総数94名中、この日本文を正しく英訳できた学生は皆無であった。一番多い間違いはやはり、“Sayuri Ishikawa, please.”のように、“please”を用いた者で、94名中25名(26.59%)、“Please come in. / Come in, please.”のような言い方で“please”を用いた者5名(この場合のpleaseを含めれば計30名、31.9%の多くがこの副詞を誤用している)。次に多い誤用が“Come on.”のような言い方で、全部で20名の学生がそう答えた(21.27%)。

7)「辞書をお借りしてもいいですか。」「もちろん、いいですよ。」
  ()→“May I use your dictionary?”“(Yes,) certainly./ (Yes,) of course. / Sure, go ahead.(解説)この問題を正しく答えられた学生は94名中77名(81.9%)。ほかに“Please use it.”“Of course, please.”のように、ここでも“please”を用いた者が数名いた。なお、Of courseを用いた答え方は偉ぶっているように響く可能性がある点の理解はできていないようである。

 8)「お腹はすいてないだろうね。」「もちろん、すいてないよ。」
  ()→“You’re not hungry.”“No, I’m not. / No, thanks. / Of course not. (解説)正しく答えられた学生は94名中53名(56.38%)で、そのほとんどは”Of course not.”か“No, I’m not (hungry).”であった。前者の表現は言い方によっては選ぶって響く可能性がある。 No, thanks.”と答えた学生は皆無であった。

9)「オックスフォードとケンブリッジ、どっちを応援する(root for)の?」「もちろん、ケンブリッジだよ。」
   ()→“Which team will you root for, Oxford or Cambridge?”“Definitely, Cambridge./ Of course, Cambridge./ Cambridge, of course. (解説)正しく答えたのは94名中48名(51.06%)であるが、そのほとんどは“of course”を用いたものだった。やはり、日本人学生にとって「もちろん=of course」の結び付き“”は強いようである。同時に、of courseを用いた答え方は偉ぶっているように響く可能性がある点の理解はできていないようである。“Definitely”を用いて答えたものは皆無であった。

10)そのミュージシャンは日本はもちろん、ヨーロッパでも有名だ。
 () That musician is wellknown not only in Japan but (also) in Europe.      
 ◆(解説)正しく答えたのは94名中31名(32.97%)。その内訳は、B組0名、G組3名、I組14名、J組14名であった。TOEFL ITPの得点と相関関係を見ることができる。

11)父はウイスキーはもちろん、ビールも飲まない。
  () My father never drinks beer, not to mention whisky. (解説)正答とした構文を用いたものは皆無。94名中11名(11.70%)がMy father drinks neither whisky nor beer.のような言い方をしたが、この構文を用いた者も正答とした。この構文を用いたのは、I組1名、J組10名で、TOEFL ITPの得点と相関関係を見ることができる。26名(27.65%)の学生はMy father doesn’t drink not only whisky but (also) beer.のような構文を、また、11名(11.7%)の学生はMy father doesn’t drink neither whisky nor beer.のような構文をそれぞれ用いた。

12)この物語はとても面白い。 
 () This story is very interesting [amusing].(解説)94名中91名(96.80%)の学生が正しく“interesting”を用いた。ただし、全員が“interesting”を用いた。

13)サッカーは面白い
() Soccer [Football] is a lot of fun [enjoyable/ exciting]. / I like to play soccer [football].(解説)94名中53名(20.21%)の学生がいずれかの正しい答えを用いた。この場合にも“interesting”を用いた学生が25名(26.59%)もいたが、この形容詞はチェスや日本の将棋のようなゲーム以外は用いられない。

4 ニューヨークは面白い都市だ。
 () New York is a fascinating [interesting / exciting /attractive] city. (解説)94名中66名(69.14%)がいずれかの正しい形容詞を用いた。その内、46名(69.69%)は“interesting”用いた。ここでも、「面白い=interestingの直結の強さを感じることができる。

15)彼女はよく面白い冗談を言う。
 () She often makes a funny joke.(解説)94名中56名(59.57%)が正しく“funny”を用いた。ここでも“interesting”を用いた学生が94名中11名(11.7%)いた。

1−2−1 仮説(その2)の検証 日本人学生が日本語の「どうぞ」、「もちろん」、「面白い」にそれぞれ“please”、“of course”、“interesting”を直結させる傾向は、英語力の増進と共に、変化を見せ、適切な語句を適切な場所で用いることができるようになる。

TOFLE ITP1=学年平均(the average score of the first grade; 10 classes) 
TOFLE ITP2=クラス平均(the average score of each class; each one of the four classes)

1年B組

1年G組

1年I 組

1年J 組

TOFLE ITP

369.5

369.5

369.5

369.5

TOFLE ITP

333.3

378.9

403.9

437.5

 Q.

 68%

 100%

 100%

 100%

58

56

88

84

58

72

68

64

 0

 8

16

20

16

64

64

80

 0

 0

 0

 0

79

72

92

88

21

56

72

72

37

60

40

64

10

 0

12

56

56

11

 0

 0

 4

40

12

79

92

88

100

13

26

76

48

80

14

37

72

80

84

15

26

52

64

88

 

上記の結果表を一目して分かるように、15問中、1年J組(TOEFL ITP 437.5)が1位を占めた問題の数は10問(66.66%)であり、1年I組(TOEFL ITP 403.9)が1位を占めた問題の数は5問(33.33%)である。1年G組は2問(13.33%)において1位を占めている。

2.   語彙指導の問題点と解決策(Problems of Vocabulary Teaching and their Solutions)
 以上のことから理解できるように、日本人英語学習者は早期に記憶した語句を過剰一般化して、日本語が同じであれば、英訳の場合にも、そのまま使えると考えてしまう傾向がある。これは外国語習得の段階でよく見られる現象である。しかし、英語を母語として、常に日常生活の中で自然に獲得して行く、いわゆる“ネイティブ・スピーカー”と異なり、外国人学習者である我々日本人は、意識的に学習したり、させたりしなければ、正しい語句の使用法を身に付けることはきわめて難しい。これまで見て来たような語彙的誤り(lexical error)は、明らかに我が国の不十分な英語指導に起因するものである。
 したがって、「どうぞ」「もちろん」「おもしろい」という日本語を、“please”、“of course”、“interesting”と単純に結び付けて教えるのではなく、それぞれの日本語の多義性を同時的に教えたり、それらに言及したりする必要がある。逆から言えば、英語の“please”、“of course”、“interesting”を「どうぞ」「もちろん」「おもしろい」と訳す時には、それぞれの用法上の制約や意義的特徴を教える必要がある。その意味で、我が国の外国語教育における類義語指導はきわめて不十分である。
 出題文の内、全体的に正答率の低いもの、具体的には、正答率が50%未満のものに関しては、教授者の教授方法に問題があるであろうし、特に、94名の受験者が誰も正答を出せなかったもの(6番)や、正答率の極端に低いもの(4番、10番、11番)に関しては、学習者に対する教授者の意識的指導が必要である。母語と異なり、放っておけば試行錯誤でその内に習得するであろうというようなことは言いがたいからである。
 ちなみに、我が国では類義語の指導順序(order of teaching, teaching order)の在り方、学習者の立場から言えば、獲得順序(order of acquisition, acquisition order)の在り方に関する研究は、管見によれば、行われていないようであるが、考慮すべき課題の1つと言えよう。

3.データ誘出とその分析と語彙指導(Data elicitation, its analysis and vocabulary teaching)
 今回私が行ったような、仮説検証のためのテストを組織的に行い、その結果をデータとして収集し、適切に分析したのち、どのような語句を、いつ、どのように教えていけば良いかを考える必要がある。
 英語の教科書、辞書、語法書などでは、類語や類似表現を関連付けて用例と共に適切に教え、「語は全て1語=1義である」というような印象を学習者に与えないように十分に注意する必要がある。
 誤答分析(error analysis)の目的の1つは、「授業用または教材準備の参考として、言語学習に共通の困難点に関する情報を得ること」(to obtain information on common difficulties in language learning, as an aid to teaching or in the preparation of teaching materialsLongman Dict. Of Lang. Teaching & Applied linguistics, 1992, p.127)である。
 この分析結果を適切に授業や教材に取り入れて指導しなければ、学習者は重要な点に気づかないまま、「過剰一般化」によって英語を話したり書いたりしつづけるであろう。その結果、聞き手に苛立ちを与えたり、誤解を与えたりすることになる恐れがある。いずれにせよ、コミュニケーション上の困難を生じる恐れが多分にある。外国語学習の主な困難点は、第一言語(母語)の干渉によって引き起こされるから、対照分析(contrastive analysis)を十分に行って、その結果を利用すれば、第一言語(母語)の干渉の影響を減少させるか、最小限に抑えることが可能となる。