15. 「英和辞典を使用した授業」評 ― 
      対照言語研究と『スーパー・アンカー英和辞典』



平成24年[2012年]度の授業の1つ、「対照言語研究」で、私は私が編纂した『スーパー・アンカー英和辞典』(第4版、学研教育出版)を教科書として使った。シラバスの詳細は省略するが、前期は主に「日本語と英語の言語的・文化的異同」を、後期は主に「イギリス英語とアメリカ英語の言語的・文化的異同」を取り扱った。以下に紹介するのは昨年の12月第1週に行った、履修登録者による「授業評アンケート」の詳細である。登録者数56名、回答者数42名(男女、各21名;うち無効1名)、うち2年生が10名、3年生が23名、4年生が8名、計41名が有効回答。
 受講生は紙の英和辞典を教科書として使うという授業形態に、最初は戸惑っていたようだが、次第に慣れ、辞書を読んだり引いたりすることに大いに興味を示してくれた。そのことは以下に紹介する授業評価からも推測できる。


No 設問文 平均点 標準偏差 回答数
満足
(強くそう思う)
やや満足
(そう思う)
どちらとも
いえない
 やや不満
(そうは思わない)
 不満(まったく
 そうは思わない)
板書(スクリーンの文字・画像等)・配布物の読みやすさ・見やすさ 4.26 0.82 20 14 7 1 0
教員の話し方(話すスピード、声の大きさ等) 4.69 0.60 32 7 3 0 0
教員の説明の分かりやすさ 4.62 0.69 30 9 2 1 0
授業の進み具合はあなたにとって適切でしたか 4.36 0.87 23 13 5 0 1
授業の内容を自分なりに理解できましたか 4.48 0.63 23 16 3 0 0
教員の授業に対する意欲や熱意 4.76 0.57 34 7 0 1 0
教員の学生への対応(質問等に対する対応) 4.64 0.68 32 5 5 0 0
授業にふさわしい雰囲気の確保(私語に対する注意等) 4.74 0.54 33 7 2 0 0
この授業で興味や関心が深まりましたか 4.71 0.55 32 8 2 0 0
10 この授業に対するあなたの満足度をお答えください。 4.57 0.66 27 13 1 1 0
総計 4.58
(No.10
を除外)


 回答者はもちろん無記名であるので、「良かったと思う点」、「改善してほしいと思う点(具体的提案)」が書き込めるようになっている。「改善してほしいと思う点」は@私の板書に草書体が混じって受講生には理解できないことがあった、Aマーカーが薄すぎて文字が読み取れなかった、B政治的好悪感は控えてほしい、の3点だった(Bは、ちょうど衆議院総選挙を控えた時期だったので、私の好きな候補者の名を挙げたり、中国からの留学生数名がいる前で、尖閣諸島の問題を取り上げたりしたことが原因だと思う)。以下に、「良かったと思う点」をそのまま転載する。

1)毎回の授業に熱意がこもっており、とても分かりやすい話をしていただくので、とてもためになった。
2)先生の話が面白い。英語の理解が深まった。
3)教室の環境がとてもよく、勉強しやすかったです。
4)アメリカやイギリスの言葉を辞書を通して知る事ができ、とてもためになりました。
5)先生の熱意が伝わって来て、あらためてこの授業に対する興味がわきました。
6)日英の文化の違いについて学ぶことができて良かったです。
7)先生の辞書を使って授業を進めていて、分かりやすく、解説もとてもよかったです。
8)人生が変わる、勇気づけられる話をたくさん聞けた。
9)先生は常に真っ直ぐに私たちのことを見ていてくれて、すごく優しく、時に厳しく、講義してくださいました。とても優しくて、温かく、大好きで、尊敬できる教授のひとりです。本当にありがとうございました。
10)各国の文化や仕組みなどについて詳しく知れました。
11)教科書以外にもいろいろな内容のことを教えていただいたのでためになった。
12)先生がこの大学を愛してくれているおかげで、私もこの大学に入ったことを誇りに思った。
13)授業で学ぶ単語の日常の中での使い方や単語への感じ方の違いなど、丁寧に教えていただける点です。
14)説明の分かりやすさ。
15)先生の授業は今私たち学生にとってとても大切なこと、日常的に使う英語表現を丁寧に教えてくださいます。これらかも先生の熱意ある授業を期待したいです。
16)英語だけでなく、正しい日本語をしっかりと教えてくれる。親のようにしっかり教えてくれる。
17)日常生活の中で、自分では気づかない点をアメリカやイギリスの文化を含めて、説明してくれ、ためになる授業でした。
18)先生が熱心でよかった。
19)英語についてより深く知る事ができた。
20)今まで自分の知らなかった日本に付いても教えてくれる。
21)今まで知らなかった日本と他国のことを知れました。
22)日本と言う国についての話はいつも興味深く、知識として身に付いた。
23)熱意があってとてもいい。学生を想う気持ちが伝わってくる。
24)先生の熱意がすごく伝わって来てとても良いです。
25)イギリス英語とアメリカ英語が、文化によって使われ方が違い、言語の背景に隠れた意味も学ぶことが出来てとても面白かったです。言語を比較するだけでなく、それに関わる文化を知る事も出来た。
26)英語の持つ本当の意味が分かった。訳し方などがとても参考になる。
27)毎回、授業に出席するたび、英米のことだけでなく、日本のことについても大変深く学ぶことができる。
28)いつもとても熱心にお話ししてくださいます。無知な私にとって、この授業は日本やアメリカの様々なことが知れて、とても素敵な授業だと思います。
29)英語だけでなく、日本語、文化背景なども学べるところがよいです。
30)熱心さがとても伝わってくる。授業に集中しやすい環境である。
31)学生の未来を見据えて、ためになる指導をしてくださったと思います。社会での苦悩、壁など、自分たち学生では知ることが出来ないことを聞くことができた。
32)経験をもとにして授業を進めていた。現在の政治などと比べながら説明していたので理解しやすかった。
33)自分の至らない日本語を改めて見直すことができました。また、この授業を受けて、日本がより好きになりました。まだ、先生の授業を受けていない人にも聞いてもらいたいです。
34)辞書を使用しながらの授業はほかにないのですごくためになった。
35)授業への熱意がとても強く、自分も頑張ろうと思った。
36)今まで英語を勉強してきましたが、学んできたことはとても浅い知識ばかりで、本当はもっとよく理解していなければないところが全く分かっていなかったと痛感しました。山岸先生の授業を取らなければ、知らずに卒業してしまったと思うので、本当にこの授業を受講して良かったです。
37)先生のお話を聞いて、日本文化や政治について興味を持つことが出来ました。
38)授業を通していろいろな文化を知った。自分の考えを改めることが出来た。
39)授業の進むスピードが丁度よく、1つ1つの話題に対して、深く話していただけたので、1つ1つにとても興味がわきました。政治的な話も時折交ぜていただきとても楽しく受講させていただきました。


 以上が、受講生41名(有効人数)のうちの39名が書いてくれた「良かったと思う点」である。その感想文から分かるとおり、1年間、30回(1回90分)の授業を英和辞典1点を使いながら、英語圏の人々の物の考え方、文化と言葉の関係、日本語と英語の対照言語学的異同等々を取り扱うことは可能だということだ。顧みれば、大学の教壇に立ってすでに40数年になる。若い頃の授業評価は、5点法で限りなく5点に近い評価を受講生諸君から得ることが出来た。今でもその頃のことを思い出すと胸が熱くなる。だが、残り2年で古稀を迎え、退職する年齢だ。受講生と私の年齢差は半世紀近くだ。現代人の価値観も相当に変化している。だが、そんな私に、何人もの受講生が「先生の授業には熱意がこもっている」と評価してくれている。6番の「教員の授業に対する意欲や熱意」の評価はご覧のとおり4.76若い頃は限りなく5点に近かった。若さは尊いと思う。昔ほどではないなと思うが、年齢から判断すれば、「よくやっている」と自賛したい。私は大学教師として教壇に立ち始めた時、学生の授業評価が5点満点のうちを下った時には、教員をすっぱりと辞めるつもりだった。だが、ありがたいことに、40数年間の大学教員生活でその数字を下ったことは一度もない。それが私のささやかな誇りであり、平素の努力と工夫の証しである。

                                               
【後刻記】安井稔・東北大学名誉教授が『英語学の門をくぐって』(平成9年12月20日第1刷発行)の中で、「自己点検・自己評価の核心」(182−3頁)と題して、次のように書いておられる。我が意を得たりの感が強い。引用させていただく。下線は私が施したもの。そこに「秋山小兵衛(あきやま・こへい)という名が出て来るが、これはまず間違いなく、池波正太郎による時代小説「剣客商売」の老主人公・秋山小兵衛のことだ。

秋山小兵衛という剣客がいたとしよう。江戸の片隅で町道場を開いている。剣の達人でもあり、人生の達人でもある。唐突ではあるが、この人が自己点検・自己評価という課題を至上命令として与えられたとしよう。彼は一体何をするであろうか。
 道場の屋根に雨漏りが見つかれば、直ちに修理するであろう。道場の床に踏み抜いた穴が見つかれば、これも直ちに修理するであろう。もちろん、けいこに必要な木刀の手入れなどにも、十分気をくばるであろう。
 けれども、彼が、沈思して、これこそ自己点検・自己評価の最大の眼目と思い定めるのは、ほとんど間違いなく、おのれの剣を磨き、剣の道に精進するという一点になるであろう。町道場と現在の大学とを同じ次元のものと考えているわけではない。が、それを承知で、ゆるやかな平行移動を試みるとすれば、現代の大学における自己点検・自己評価の最大眼目は、やはり、間違いなく、教員の学問的精進と教室におけるたゆまぬ工夫ということになるであろう。(以下省略)