(Hana) 

作詞:武島羽衣   作曲:瀧廉太郎
英訳:山岸勝榮©

HANA (Cherry Blossoms)
Lyrics: TAKESHIMA, Hagoromo Music:: TAKI, Rentaro
English Translation : YAMAGISHI, Katsuei
©

  


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歌人であり東京女子高等師範学校教授でもあった武島羽衣(はごろも)の詩に、22歳の天才作曲家・瀧廉太郎が曲を付けたもの。明治・大正期より昭和初期にかけて若い女性たちに愛唱された唱歌だが、今でも人気が高い。詩・曲ともに気品に満ちたものだと言える。

YouTube版mp3
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1.
春のうららの 隅田川
のぼりくだりの 船人
(ふなびと)
(かひ)のしづくも 花と散る
ながめを何に たとふべき

A lovely day, a beautiful day on the Sumida River
Going upstream and going downstream as the boatmen oar
Drops from the oar-blades scatter, so many cherry blossoms
Such views of the river are beyond all compare



2.
見ずやあけぼの 露浴
(つゆあ)びて
われにもの言ふ 桜木
(さくらぎ)
見ずや夕ぐれ 手をのべて
われさしまねく 青柳
(あおやぎ)

Have you ever seen at first dawn the glittering of dew?
Those cherry trees seem to talk to us along the river banks
And the willows in the first dark, seem to whisper to us too
Take my hand, my extended hand, and come see these views


3.
(にしき)おりなす 長堤(ちょうてい)
(く)るればのぼる おぼろ月
げに一刻も 千金の
ながめを何に たとふべき

A brocaded bank on either side, a long swath of golden earth
As the daylight fades away to dark, a big hazy moon
Every moment of gazing is a thousand gold coins' worth
Such views of the river are beyond all compare






無断引用・使用厳禁
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©




以下の文章は私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君の手になるものです。
興味深い比較ですので、同君の了解を得て、転載します。


山岸勝榮教授
 最初の課題曲であります「花」の英訳比較を行いました。山岸教授の御訳とGreg Irwin氏のものを比べ、気づいたことを以下に記します。いつものように、yahooボックスの「共有」に訳比較のPDFファイルがございますので、お手数ですが、そちらをダウンロードなさってください下に
pdfをダウンロードした―山岸

【形:行構成】
 原詩は1連が4行で構成されています。山岸教授は、原詩の1連4行の構成をそのまま英訳に反映なさっています。それに対してIrwin氏の訳は、原詩の倍である1連8行の構成になっています。おそらくIrwin氏は脚韻を踏むためにこのように行を分けて書いたと思われます。

【形:脚韻】
 山岸教授の御訳における脚韻は各連で一組ずつございます。Riverとoar、dewとtoo、earthとworthの計三カ所です(ちなみに、私を含めたゼミ生の英訳にもいくつか、脚韻を踏んでいる箇所も実は見受けられます。しかし、それは意図的に韻を踏ませたのか、それとも偶然韻を踏んだのか、当人に訊いてみないとわかりませんが、おそらく後者でしょう)。一方のIrwin氏は、先ほどの「行構成」のところでも言及しましたように、ほとんどの行で脚韻を踏んでいます。英語らしさがうかがえる詩であることが分かります。

【原詩への忠実度】
 山岸教授の御訳は原詩に極めて忠実でございます。もしかすると、一行目の「春」にあたる"Spring"が教授の御訳にはないという指摘があるかもしれません。しかし、教授がお訳しになった題は「HANA (Cherry Blossoms)」であり、こちらに目を通せば、教授の御訳にある一行目のA lovely day, a beautiful dayが"Spring"であることは明白でございます。それに対して、Irwin氏の英訳ですが、原詩を反映している箇所の方が、反映していない方より、圧倒的に少ないことがわかります。山岸教授が本年の4月9日にブログにてお書きになっているように、「隅田川」「船人」「櫂」など、名詞一つをとっても原詩に忠実で無いことは一目瞭然です。以前、わたくしは、山岸教授がお訳しになった「あめふり」とIrwin氏が訳した「あめふり」を比較しました(こちら)。その際、原詩への忠実度を数値化しましたが、今回は数値化するまでもないというのがわたくしが感じるところでございます。
 少々主観的なことになりますが、「ながめを何に たとふべき」を山岸教授は Such views of the river are beyond all compareとお訳しになっています。特にこのbeyond all compareという表現はわたくしたちゼミ生が到底思いつかない表現であり、今でも印象に残っています。
 実は興味深い話ですが、今までに100曲以上の日本の童謡や唱歌を英訳しているIrwin氏が、英訳するのに最も難しいと感じた歌は「花」だそうです。特に、「ながめを何に たとふべき」をどのように英訳したらいいのかと悩みに悩み、結局1連では"Have you heard a hummingbird When it starts to sing?"と、3連では"Near the river in the Spring Heaven here on Earth"とそれぞれ訳しています。この事実一つを取って見ても、Irwin氏の英訳が原詩に沿っていないということが分かります。 

【小考察】
 Irwin氏の英訳を見れば見るほど、翻訳とは何かということを考えます。例えば、日本語から英語に翻訳をするのであれば、日本語にできるだけ沿い、日本語のニュアンスをできる限り忠実に英語に反映させることが必要です。しかし、Irwin氏の英訳は、【原詩の忠実度】の項で示したように、原詩のニュアンスどころか、原詩そのものも反映されていません。極論ですが、原詩が無くてもおそらく日本の春を英語圏の人々が体験すれば、Irwin氏が作ったような詩が作れるのではないかとさえ思います。Irwin氏の訳詞は原詩を無視した作品であるがゆえ、その行為はもはや翻訳とは言えないとわたくしは思っております。

 平成25「2013]年7月28日
               大塚 孝一
   
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