9 英語文化理解度チェックシート

本チェックシートは『スーパー・アンカー英和辞典』(第3版)用に私が書き下ろしたものです。解答は同辞典の付録として収録されている「英単語と英文の文化を読む」に解説の形式で収録してあります。

本チェックシートは私の講演「異文化理解と英語教育―日本人英語教師に望むこと」(平成15年9月12日大阪市教育研究会外国語部主催公開講演会/於・大阪市立中央高等学校)でも使用しました。
 
 
 このシートであなたの英語文化理解度をチェックしてみませんか。30問全問に正解が出せるようであれば、あなたの英語文化理解度は完璧ですし、半数近くでも、かなりに高いものといえるでしょう。具体例から始めます。

 He is a sincere man.
 この英語を「彼は誠実な男性だ」と訳した場合、あなたはどのような男性を連想するでしょうか。おそらく、「真心をもって相手のことを考えながら行動する男性」を連想するでしょう。それでは、英語の“sincere man”(sincereの名詞形はsincerity)から英語圏の人々が連想するのはどのよ
うな男性でしょうか。
 多くの人は、「自己に正直で、率直な男性」(an honest, straightforward man)を連想するでしょう。つまり、日本人が考える「誠実な男性」は「相手の立場に立ってものを考えることができる男性」であり、英語の“sincere man”は「自分自身に正直な男性」ということですこのような違
いから、日本人の言う「誠実な男性」が、英語圏の人々には、「他人の思惑を気にする、自分自身に不正直な男性」と映り勝ちですし、英語圏の人々が言う“sincere man”が、日本人には、「自己中心的で、思いやりのない男性」と映り勝ちです。このような日英語のイメージの違いは、それぞれ
の言語を抱える文化が異なるために生じるものであり、それらを正しく理解しておかなければ、時としてコミュニケーションギャップや深刻な誤解が生じる恐れがあります。それでは、以下に問題を掲げます。


1.英日語のズレに関する理解度チェック
 (問題1) He killed the crows in good conscience.

   この英文における“conscience”を「良心」と訳すのは不適当ですが、それはなぜでしょうか。
(問題2)There was a difference of opinion between the two.
  この英文を日本語に訳した場合、両言語にはどのようなニュアンスの差が生じる可能性があるでしょうか。
(問題3) What he did is unforgivable. / What he did is inexcusable.
   上の2文は共に「彼のしたことは許し難い」と訳せますが、宗教色のある文はどちらでしょうか。また、それはなぜでしょうか。
(問題4)He is a modest man.
    この英文は「彼は謙虚な男性だ」と訳せるものですが、“modest”と「謙虚な」との間にはどのようなニュアンスの差があるでしょうか。
(問題5)The principal took responsibility for the fire in the night-duty room.
   この英文は「校長は宿直室火災の責任を取った」と訳せますが、英語の“take responsibility”と日本語の「責任を取る」とではどのようなニュアンスの差があるでしょうか。

(問題6) She is very self-assertive.
 この文の“self-assertive”は「自己主張が強い」と訳され勝ちですが、その訳語はミスリーディングです。それはなぜでしょうか。

 2.英語的発想に関する理解度をチェックする
  以下の各文は英語文化をよく反映しています。どのような点でそうなのでしょうか。
 (問題7)Paul has that awful habit of picking his teeth.
(問題8)Making my son [daughter] eat spinach is a struggle.
(問題9)Tony's punishment was staying in his room without dinner.
(問題10)“Ahchoo!”“(God) Bless you.” “Thanks.

(問題11)If I see a drunk, I'll report him to the police immediately.

(問題12)Inevitably he quarreled with his mother-in-law.

(問題13)His handshake was like a dead fish.

(問題14)“Would you like some more coffee?” “I've had enough, thank you.

(問題15)“Good luck on your exam tomorrow, Norman.” “Thanks, Paul.I'll need it.

(問題16)“Do you need help moving?” “I've already three other guys. But thanks for offering (to help)
           [thanks for the offer]

(問題17)“How's your husband?” “Oh, he's doing well. He has an important job now with a lot of responsibility.

3.日本語的発想に関する理解度をチェックする
  以下の各英文は日本人の発想法をよく反映しています。どのような点でそうなのでしょうか。
問題18)Thank you very much for the other day.
(問題19)I've heard your son has gone overseas to study. You must be lonely.
(問題20)Last night I had a bath with my son for the first time in years.

(問題21)After injuring you, he didn't even come to see you at the hospital. I have to doubt
       his sincerity.
(問題22)He has never failed to send his academic adviser midyear and year-end gifts.
(問題23)We'll do our best not to disgrace the name of our school.

4.この英語の語句はどう響く?
(問題24)He always does things in a businesslike manner.
  この英文は日本語の「彼はやることがいつもビジネスライクだ」を英訳したものですが、日本語の「ビジネスライク」と英語の“businesslike”とでは意味上のズレがあります。それはどのようなものでしょうか。
(問題25)Taro and I were classmates.
  この英文は日本語の「太郎と僕とはクラスメートだった」を英訳したものですが、日本語の「クラスメート」と英語の“classmate”とでは意味上のズレがあります。それはどのようなものでしょうか。
(問題26)With some help from above, I'm sure that I can make it.   
   この英文は日本語の「上(=上司、上層部)からの助けがあるんだから、うまくいくよ」を英訳したものですが、英語を母語とする人には“with help from above”は異なった意味に響く可能性があります。それはどのようなものでしょうか。
(問題27)He gave [made] an excuse for arriving late.

  この英文は日本語の「彼は遅刻の言い訳をした」を英訳したものですが、日本語の「言い訳」と英語の“excuse”とでは意味上のズレがあります。それはどのようなものでしょうか。

問題28)This is my first letter to correspond with a foreigner.
  この英文は日本語の「外国人と文通するのはこれが初めてです」を英訳したものですが、日本語の「外国人」と英語の“foreigner” とでは意味上のズレがあります。それはどのようなものでしょうか。
問題29)I will love you as long as I live.
    この英文は日本語の「僕は一生君を愛します」を英訳したものですが、日本語の「愛する」と英語の“love” とでは意味上のズレがあります。それはどのようなものでしょうか。
(問題30)He is realistic.
    この英文は日本語の「彼は現実的だ」を英訳したものですが、日本語の「現実的な」と英語の“realistic” とでは意味上のズレがあります。それはどのようなものでしょうか。

おわりに
 以上、英語理解に必須の文化情報を素材とした30問の疑問にチャレンジしていただきました。このような疑問を解く鍵を用意し、深い英語理解の実現を可能にする目的で準備したのが『スーパー・アンカー英和辞典』の「英語文化のキーワード」欄や「日英比較」欄です。特に、同辞典の第3版
では前者を大幅に増補し、後者もいっそう充実させました。英和辞典は英語および英語圏文化情報の宝庫です。英語の文法・語法に関する情報の収録ももちろん重要ですが、それに勝るとも劣らないほど重要なものが英語文化情報です。『スーパー・アンカー英和辞典』(第3版)によって、英語
の核心に迫って下さい。