4  学習英和辞典の引かせ方(2)
         ―高校教科書を利用した場合(想定)

      

1. 授業と辞書使用
  高校生を最後に教えたのは、もう30年も前のことになるが、その私が、いま彼らを教えるとすると、どのような語句を辞書利用の素材とするであろうか。手元にたまたま Milestone: English Readers II B (啓林館、1989)があるので、そのLesson 1の冒頭 10行を引用して考えてみよう。
 
      Soon after I came to Japan, the Ishii family invited me to their
     home for dinner. Mr. and Mrs. Ishii could speak some English, Shotaro,
     their son at the university, could understand English, and Kikko,
     their daughter in high school, could also understand a little. I was very
     happy to have this chance to visit a Japanese family in their home and
     to have dinner with them.
 
  辞書利用という観点だけからだと、まず冒頭の soon を利用して、immediately (同課で後出する副詞)、instantly (同書Lesson 15で使用)の3語の意味の違いを確認または再確認させたい。できれば、at once, right away にも言及したい。続いて、the Ishii family における “family”と、support one's family, His family is large.などという場合の “family”の意味の違いに注意を向けたい。次に、動詞の invite を引かせ、“invite a person to〜for…” のパターンに気づかせたい。high school を引かせて、日本との学校制度の差などにも気づかせるのもよい。あるいは、chanceを引かせて、opportunityとの差を確認させることも可能である。home があるのを利用して、house との差に言及することもできる。さらに、Mr. と Mrs. を引かせて、ピリオドを打つのが主にアメリカ式であり、打たないのが主にイギリス式であるということを知らせることもできる。あるいはMr., Mrs. が何の省略形か、生徒各人に調べさせるのも知的刺激があってよい.
  辞書と関係なくというのなら、Shotaro, their son at the university および Kikko, their daughter in high school の英語的語順と、日本語の「大学生の【大学に行っている】息子、ショウタロウ」、「高校生の【高校に行っている】娘、キッコ」との語順の違いに注意を向けたいと思う (ここでは “high school” を便宜的に「高校」と考えておく)。あるいは、invite や dinner という語からの連想で、人の招待の仕方、もてなし方の日英差を紹介してやるのもよかろう。

辞書の利用法は多岐にわたる
  以上、私ならこうした点を英和辞典利用のための素材としたいという実例を示した。限られた時間内で、そんなに多くのことができるはずもなかろうが、わずか10行の英語の文章中でさえ、上記したような、さまざまな語句が素材となり得るのである。その点を知っていただきたいと思う。
  辞書の利用法はじつに多岐にわたる。それだけに、教師各人が平素から辞書を利用していなければ、10行の英文を目前にして、何ら辞書利用のための素材を見つけることもできないということになってしまうであろう。
  上記したもの以外にも、素材となる語句は少なくない。たとえば、speak を利用してtalkとの比較、university を利用してcollege との違い、some English の some を利用して同語の弱音と強音の違い、dinner, after, university などに含まれる“-er”の英米発音差、a Japanese family のJapanese は単独では第3音節に強勢が置かれるが、形容詞の場合には第 1音節に移動(shift)すること等々を、辞書で認させたり、説明してやっったりすることも可能である。教師の着眼点が良ければ、色々と興味深い素材を見つけることが可能である。

  上掲Milestone のLesson 2は「なぜ?」についての歴史的由来をたどった課であり、その最初が“handshake”(握手)である。いつごろどのようにして握手の習慣が始まったかについて書いてあるが、同課をより面白くし、授業そのものを活気あるものにするためには私なら黒板【緑板?】に大きく 「handshake 握手」または 「shake hands 握手する」と書いて、生徒たちに何か気づかないかと尋ねるであろう。まず、解答できる生徒はいないであろうから。そこで、英語ほ「手を“振る”(shake)」と言っているのに、日本語は「手を“握る”」と言っているよと説明する。統いて、(自賛的で恐縮だが)『スーパー・アンカー英和辞典』のhandshakeの項を参照させる。そこには右のような日英比較の囲み記事とイラストとがある。 

  このような解説を読ませ、日本人は日本語で英語を捉えてしまう傾向があることを認識させれば、高校生(のみならず大学生を含め英語学習者一般)は、まず間違いなく日英文化 (この場合“身振り文化” )の違いに興味を抱くであろう。この点は個人的経験からも断言できる。大学生たちが、私の授業を評して、「これまでの英語学習とは全く異なる」という印象を持つ1つの理由は、こうした日英文化の差を毎回授業で1つか2つ披露するからであろうと思う。教室にALTがいれば、生徒たちの前で、shake hands を実演して見せると良い。あるいは、“握手”に慣れているALTに、生徒同士の shake hands を採点してもらうのも良い。上手な“握手”をして、相手に鮮明な印象を与えるように訓練してやることも、英語教師の仕事の一部である(とは言うものの、多くの教員諸氏にとっても、私のこの指摘そのものが“新鮮”に思えるのではなかろうか)。

  Lesson 2 には “southpaw”(左腕投手)の由来も収録してあるので、これを利用して、“野球起源”の慣用句を紹介してもよい。get to [reach] first base(1塁に達する!→足掛かりをつかむ、成功の糸口をつかむ)、ground rules(各野球場の規則→行動上の基本原則)、have two strikes against [on] one(ツーストライクを取られている→不利な立場にいる、成功の見込みがない)、hit-and-run (ヒット・エンド・ランの→当て逃げの)、make a hit(ヒットを打つ→ヒットする、〜の人気を博する、〜に気に入られる、〜に好感を与える)、pinch-hit(ピンチヒッターを務める→代りを務める), play ball (試合を始める→行動を開始する;Play ball with で 「〜と協力する」)、strike out(三振する→失敗する)等々、すでに日本語の一部になっているものを含め、高校生に馴染みのある、あるいは親しめそうな口語表現が多数あることを、プリントなどを利用して紹介し、英和辞典で確認させるのもよい。あるいは、もう少し辞書を引く作業を本格的にやらせるために、“比喩的意味”を教えずに、それらを辞書で確認させるのもよい。野球に興味のない生徒でも、日常的な慣用句の中に、前述したような、野球起源のものがあることを知って、新鮮な驚きを感じる者は少なくないはずである。この点も、個人的体験によって断言でる。

英語教師に必要とされる知的好奇心
  生徒・学生たちの授業態度は、教師自身の英語に対する姿勢の鏡と言って良い。教師各人が、昨日【昨年】よりも今日【今年】の授業を、今日【今年】の授業よりも明日【来年】の授業を、より良いものに、より魅力的なものにしようと努力していれば、それは生徒・学生たちの心にいつかは反映するものである。英語教師に必要とされることの1つは、自らが常に好奇心を持ち続けることである。諺にも言われている。 Heaven helps those who help themselves.自助力を持たない英語教師に、生徒・学生を助力することなどできようはずがないと思うのである。

     THE SECRET OF A PERSON WHO IS UNIVERSALLY
 INTERESTIN
G
IS THAT HE/SHE IS UNIVERSALLY INTERESTED.


【本稿は、「現代英語教育」誌(研究社出版、1997、3)に寄稿したものの改訂版です】