16. 学生による《私の辞書活用法》
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和英辞典の場合

2003年度(平成15年度)明海大学外国語学部英米語学科の授業の1つ「英語学特講V‐b 」では、後期(9月‐1月)に『スーパー・アンカー和英辞典』(学習研究社刊)を教材にして、和英辞典の構成、内容、利用法、指導法などを講義した。そのうち、指導法の時間には、受講生諸君に、諸君は和英辞典をどのように活用するか、といった内容で、それぞれの活用法に関してプレゼンテーションを行ってもらった。以下はその具体例である。4年生2名、3年生1名、計3名を選んでみた。プレゼンテーションとしては未熟な箇所も少なくなかったが、その努力を多として各人のプレゼンテーションの文章をそのまま転載する【転載に際しては受講生の了解を得た】。



例)1 英米語学科4年 佐藤光恵

 中学三年生の弟に、大学の授業で取り上げられたいくつかの簡単な問題を解いてもらった。その解答をみると、現在の英語教育において欠如している部分が、いくつか見えてきた。中学校の現状として、弟は英和辞典と和英辞典の区別すら出来ておらず、手に持った事すらなかった。(わからないところは和英辞典を使ってもいいことにしたのだが、使い方がわからなかったため、使用しなかったらしい。)
 学校でも塾でも、英文を日本語に訳すということに大きく焦点が当てられていたり、受験で必要なものは全て参考書や教科書にでていたりするために、和英辞典を使って英語の意味を調べるという事は、彼らにとって日常的なことではないらしい。山岸先生のご著書である『学習和英辞典編纂論とその実践』(こびあん書房, 2001)のまえがきに書かれている「我が国の英語教育においては、和英辞典に関心を寄せる人々は極めて少ない状態だったのである」という考えが今の教育現場にも残されている気がした。いい辞書はあっても、それを使いこなせる教師が少ないために、辞書指導は疎かになっているといえよう。さらに今は、和英辞典のみならず、英和辞典ですら有効に活用されていないように思う。教師や塾の講師は、生徒に辞書を引かせる作業をさせず、構文等を丸暗記させるため、しっかりとした辞書指導は全くなされていないのである。
 それでは、弟の解答と照らし合わせながら、和英辞典の必要性と使用法を論じていきたいと思う。
 
 @スペインは闘牛で有名だ。(闘牛=bullfighting)  Spain is (famous) (for) bullfighting.
 
 A苗場はスキー場として有名だ。 Naeba is (famous) (for) a ski resort.
 
 このような文型の問題は、『文型中心・暗唱例文集』(巻末pp.1720-1742)を使いまず基本的な説明する。〈A is famous for B〉は、「AはBで有名である」という訳があたり、A≠Bの関係になり、〈A is famous as B〉は、「AはBとして有名である」という訳があたり、A=Bの関係がなりたつ。前者のみを教える傾向があるが、両者を同時に教え、意味の違いをきちんと教える必要があるだろう。そして、より理解を深めるために、「有名」という項目を辞書で引かせ、他の例文も見せるとよい。そして、最後に生徒自身にこの二つの違いがわかるような例文を作らせる。

 B彼らは夏休みを楽しみに待っています。 They're (looking) (forward) (to) the summer vacation.
 
 Cあなたからのお便りを楽しみに待っています。 I'm (looking) (for) (ward) (to) from you.

 Bはあっているのに、Cは間違っているということは、完全にこの構文を理解していない事になる。おそらく、〈looking forward to…〉という部分しか頭に入っていないのであろう。この構文を扱う時、後に続く品詞もきちんと教えなければ、この構文を教える意味が無い。〈looking forward to A〉のAには名詞・動名詞、進行形がくることが多いという事を色々な例文を使いながら生徒に教えるべきである。
 一つ一つの構文をここまで時間をかけて教えられない場合は、生徒をいくつかのグループに分け、そのグループごとに調べた事を発表するとよい。その発表に対し、教師は適宜説明を加えていく。このような一連の作業を繰り返し行う事により、生徒は英語にも微妙なニュアンスの違いなどがあることに気付くことが出来る。その事は、紙の辞書を使う習慣にも繋がると思う。

 D あのピッチャーはいい肩をしている。 That pitcher has a strong (well).

 括弧の中には、勿論(arms)が入るが、弟は私が想像もしていなかった答えを書いてきたので正直驚いた。単純に(shoulder)と書いてほしかったのだが、私の思いどおりに全てがいくわけがない。まず、このような答えを書いてきた場合、‘have’の用法として、「(性質・属性などとして)…を持っている、…がある」というものがあることを色々な用例を示しながら、生徒に教えなければならない。その後に、括弧の中には「肩」を指す英語が入るが、何という英語が入ると思うかを生徒に発表させたり、辞書を引かせたりする。最初のうちは、生徒は素直に‘shoulder’という単語を出してくれるだろう。しかし、授業が進んでいくうちに、日本語の対訳にあたらない単語がくる事に勘のいい生徒は気付き始めるだろう。そうなった場合、生徒に想像した単語を出させ、辞書があれば、皆で辞書を引き、辞書がなければ、教師が辞書のコピーをとったものを生徒に配り、正解を皆で検証していく。そして、時々日本語と英語でほとんど同じ意味になるものも取り上げ、生徒が英語に関心を持つように、楽しい授業を展開していくとよいだろう。そうなれば、この授業は成功したといえるだろう。

 E口を慎みなさい。Watch your (mouth). 正解→ Watch your (language).
 
 F展望台から下を見下ろしたら目が回った。 My (     ) swam when I looked down from the observation desk.  
 正解→ My (head) swam when I looked down from the observation desk.  

 E、FもD同様。この日英比較は授業のレクリエーションとして行うとよいと思う。授業開始時や授業終了時の五分くらいを使い、生徒が少しでも英語という言語や英語圏の文化に興味を抱くように、楽しめる時間を与えるとよいのではないだろうか。
 私が中学生、高校生の時は、単に英語を訳していく授業、つまり、先生も生徒も手を抜くことが出来る授業であった。高校生の時に受けたライティングの授業は、構文の丸暗記でしかなかった。山岸先生の下で、辞書指導について学ばせていただき、辞書指導の大切さ、重要さを知った。そして、どれだけの教師が英和辞典・和英辞典を使いこなすことが出来るか少し疑問に思った。英語学習において辞書は欠かせない。すなわち、教師は生徒が辞書を使いこなせるようになるように、指導、教育していかなければならない。


例2) 英米語学科3年 畑中 恵
 
 私は昨年の7月以降、よく和英辞典を使用するようになった。それまでは和英辞典はあまり使わないほうがいいと漠然と考えていた。和英で調べると知らず知らずのうちに日本語の検索語の意味に固執してしまい、なかなか思うように文章を作ることができなかったからだ。ところが前期に受けた辞書講義でこの考え方が一変した。辞書の特性を知ることで初めてその効果を感じることができるのだと知った。時を同じくしてIntegrated English Classでお世話になっている先生からPenguin ReadersやOxford Bookwormsを沢山読むことを奨められた。この多読学習を始めるようになってから私の和英辞典の使い方が変わったのである。
 
英文解釈も和英辞典を利用
 
ペーパーバックを読むにあたり、最小限の努力で最大限の効果をと考えて酒井邦秀著『快読100万語!ペーパーバックへの道』(ちくま学芸文庫)を読んだ。ここでは原則として辞書を使わず飛ばし読みをするように奨めている。最初は私もそのルールに従って読み始めた。しかし基本単語が少しずつ多くなり、物語の筋がしっかりしてくる本になるにつれて時々どうしても調べたい単語が出てくるようになった。確かにその意味なしでも物語の概略は掴めるのだが、その単語をひくことでもっと物語を楽しみたいと思うようになった。といっても何でも調べてしまうのではなく、何度か出てくる単語や、飛ばし読みした後でどうしても気に掛かる単語を調べるようにした。初めの頃は直接英和辞典で調べていたが、そのうち知らない単語も前後の文脈から想像するようになった。しばらくして勘も働くようになり、知らない単語でも少し雰囲気を感じ取れるようになった頃、今度はその勘が本当に適切なのかと気になりだした。そして英和辞典を使って自分の勘が当たっているかどうか確認するようになったのである。以前なら英文解釈に和英辞典を用いることなど考えもしなかった。おそらく自分から自然に辞書を活用した始めての出来事だった。
 例えば昨年読んだEdgar Allan Poe:The Black Cat and Other Stories (Penguin Readers)で、語り手の男性が再び現れた黒猫を地下のワインセラーで殺そうするが、それを止めに入った妻を手にかけてしまい、その死体を壁に埋め込むという場面がある。


 It was quite an old building, near the river, so the walls of the cellar were quite wet and the plaster was soft. There was new plaster on one of the walls, and I knew that underneath in the wall was not very strong. I also knew that this wall was very thick. I could hide the body in the middle of it.

 私はplasterという単語を知らなかったが、文脈から柔らかい壁=漆喰だろうと考えていた。もし単なる壁と表現したいのならwallするだろうと思ったからだ。とても気になったので読み終わってから和英辞典をひいてみると次のように記載されていた。

  しっくい 
漆喰 mortar(モルタル;れんが・ブロックなどの接合材として用いる)
     plaster(
壁・天井などに塗る)stucco (壁などに施す化粧用)壁にしっくいを塗る
   
 plaster wall

和英辞典で単語を確認したことから以下のようなことを感じた。

  ☆私の勘が妥当だったこと
  ☆plasterの意味を確認して読み直したら文章の情景がよりリアルに感じられたこと
  ☆日本語の漆喰に相当する英語は1つではないこと

    ☆mortar, plaster, stuccoでは意味合いが違ってくること
  ☆調べる語は名詞(:犬や猫)のように意味が明確に固定されたものに適すること
  ☆印象に残る単語をしっかり辞書で調べると頭に残りやすいこと

勘があたっているか、否かのようにゲーム感覚で辞書を何度もひいていると自然な行いになってくる。こうして様々なことに気づきはじめると、今度は単語を調べる時の日本語と英語の違いが目につくようになってきた。

日本語と英語のギャップを考える
 日本語には沢山の外来語がある。それらを英語の意味と同一だと無意識に考えて使ってしまうことがある。例えば
stoveを調べると「危ないカタカナ語」として以下のことが記載されている。

 ストーブ 1 日本語の「ストーブ」は暖房器具を指し, 英語のstoveにもその意味はあるが,
 その場合は
potbelly[potbellied] stove(だるまストーブ)のような旧式のものをさすことが多い.
 2 日常的にはstovecooking stove, cookstove(ともに料理用レンジ)の意味で用いられる
 3 暖房器具を指す最も一般的な語はheaterである.

 このように単語ひとつとっても日本語と英語では意味にギャップが生じることがある。8年前米国にホームステイした時このstoveが会話にでてきた。夏に滞在したこともあって、このstoveが暖房器具でないことは容易に想像できたが居間で話していたので、これが日本でいう台所のガスコンロを指していたことは分からなかった。日米の言葉のギャップを認識できていない場合和英辞典で検索すれば、そこに記載されている英文から日本人が捉えきれてない意味を知ることができる。和英辞典は日本人のための辞書であるから、日本人が間違えやすいことや、思い浮かばない表現のしかたを普段使い慣れているキーワードから検索できる。その点分からない語を調べるのに適していると思われる。そしてさらに理解を深めるには、あわせて英和辞典、英英辞典で意味を確認しその単語のイメージを固めていけばよい。もちろん辞書に加えて実際に使われている表現を多く見聞きすることもイメージを形づくる大切な要素である。

日本語のあいまいさを発見できる
 先の日英言語のギャップのひとつとして日本語の表現のあいまいさがある。私はこのあいまいさを理解することが作文能力を高める道のひとつであると考える。例えば、日本語で「さげる」というキーワードを和英辞典でひいてみると以下のような意味が記されている。

 さげる 下げる・提げる  
   低くする・・・・・・・・・・・・・
lower 1
   つるす・・・・・・・・・・・・・・・hang 2
   減らす・・・・・・・・・・・・・・
reduce 4
   音量を絞る・・・・・・・turn down4

 多く使用されている単語が最初にあげられている。これをみると、日本語で一口に「さげる」といっても「低くする」「つるす」「減らす」「音量をさげる」のように様々な状態を表すことが可能なのである。問題は日本語では同じ「さげる」であっても英語では違う単語を使う必要があることだ。「低くする」と言いたい時に「hang」を使ってはおかしな文になってしまう。このように日本語のあいまいさを分かっていれば、英和辞典で幾つもの単語を調べて意味を確認する必要がない。「さげる」1つを引けば日本語で意味するだろう多くの表現を一度に学習することができる。そして上記の単語を使った例文を読み込んでいくと今後自分がその表現を英語で伝える時の考え方に変化が起こる。()

 ☆額が曲がっているから、左側をもう少し下げてください →左側をもう少し低くする 
    The frame is tilted. Can you lower [bring down] the left side a bit?
  
 ☆
軒先に風鈴を下げる →軒先に風鈴をつるす 
    hang
a wind bell under the eaves.

 lowerは上方から下方への移動、hangは上方からつるすというように、全く別の状態にすることを意味する。またreduce, turn downは状態や程度などを下降させる、その他「お皿を下げてください」Please remove the dishes./Please clear the table.は中心から離すという動きを表している。例に挙げたキーワードのように多くの解説がある語は日本語と英語にギャップがあることを示しているのではないだろうか。辞書をパラパラとめくりながらこうした点を感じとるのに和英辞典は大変役立つのである。
 これまで述べてきたように、和英辞典を利用すると、母国語である日本語を基点にして英語と日本語両方から物事を考えることができる。最近では電子辞書が流行し私も数台もっている。しかし考えてみれば、すばやく物事を調べなければならない状況はそう多くない。そして多読学習をはじめてから思うようになったことだが、英文解釈する際、ぴたりと当てはまる日本語(単語)を探すことはあまり重要でなく、その文脈から近い意味を思い浮かべることこそが必要なのである。日本人は英作文や英文解釈をするのに辞書を片手に最高にマッチする言葉を探すことに固執してしまう傾向がある。それは正解が1つしかないと受験勉強や試験を通して思いこんでしまっているからだ。日本語に色々な言い回しがあるのと同じように英語も話し手の観点によって表し方が変化する。個人の表現差に加えて異文化の差異が上乗せされる状態を身近に体験できること、それが和英辞典をひくことなのだと思う。


例3) 英米語学科4年 早川宏美

はじめに
 言語を学ぶことは、文化を知ることである。私たちは英語を学ぶうえで、英語圏の文化について学ぶ必要がある。また、日本語や日本の文化についても深く知らなければならないことに気づかされる。疑問に思うことに答えてくれるのは書物や辞書であり、私たちは恵まれたことにそれらからたくさんの知識を得られる。
 和英辞典は、ただ訳語をひくことだけでなく、そのものに対する考え方、つまり文化の違いを知ることにも活用できる。日本語から英語へ表現を知り、そこから生まれる意味の相違からまた何か追求したくなることを見つける出発点である。今回のレポートでは、日英の色に対するイメージの相違について吟味したい。

1.色に対するイメージの相違を見つける。

1.1 青と緑
 私たちの生活にはさまざまな色がある。そして、文化によって色に対するイメージも変わることも忘れてはならない。しかし、英語の授業でよくあることは、’Blue means青い in Japanese.’というふうに言葉の意味だけを与えてしまう事に問題がある。
 例えば、辞書を使わずに青信号を英語に訳すとき、青=blue, 信号=lighta blue lightにしてしまう。実際には、信号の色は青緑色であるのに日本人は緑信号とは言わない。 
 「信号、青になったよ。」「青になるまで待ちなさい。」のように、信号は青、赤、黄の3色と認識されている。
 なぜ、このような共通の理解が生まれたのか。ひとつは、日本で信号ができたときには法律では緑信号となっていた。しかし、人々の間では青信号という呼び名が広がっていた。これは、色の3原色が赤、青、黄であったためこれと対比して人々が覚えたからと言われている。(一般的に青信号と呼ばれるようになったあと、昭和22年には法律でも青信号となった。)もうひとつは、日本で青という言葉が緑を表すためにも使われているためである。
 青葉、青田、青竹、青物、青いりんごなどが良い例である。そのため、人々にとって緑色の信号を青信号と呼ぶのは抵抗がなかったようだ。
 日本人は無意識のうちに上掲の単語を見れば、緑の、若い植物を思い浮かべるであろう。青が意味しているというのは緑を表していることを理解できる。しかし、英語に訳すときには注意しなければならない。日本の文化と英語圏の文化での「青」と「緑」の捉え方を、比較してみる。

1. 和英辞典
 まず、『スーパー・アンカー和英辞典』で「青」に関連する語を調べてみると、次のように15の見出し語が載っている。(pp.8-9)見出し語と訳語を載せ、例文は省略している。訳語がないものは、例文で解説されている。
 
 あお 青 
blue
 あおあお 青々
 あおい 青い
 blue ; green(緑の)
 あおいきといき 青息吐息
 あおくさい 青臭い
 あおざめる 青ざめる
 turn [go] pale
 あおじゃしん 青写真
 a blueprint
  あおじろい 青白い pale
 あおしんごう 青信号 a green light
 あおすじ 青筋
 あおぞら 青空 a blue sky
 あおにさい 青二才
a greenhorn (未熟)
 あおば 青葉
 green leaves 
 あおむし 青虫
a (green) caterpillar
 あおもの 青物 greens(青野菜)、vegetables(野菜類)

上の見出し語のうち、例文で解説されているものを次にまとめる。

 あおあお 青々 青々とした芝生 a green lawn‖海が青々と広がっていた 
 
The blue sea spread before us.‖公園の草木が青々と茂っている The grass and
   trees in the park are lush and green.
lushは「みずみずしく茂った」)
 あおいきといき 青息吐息 からっけつで青息吐息だ I’m pinched for money.
 あおくさい 青臭い ◆この野菜ジュースは青臭くないThis vegetable juice doesn’t
 stink of raw greens.
◆greensは「青物」.英米人には「青臭くていやだ」という感じは
 ない)
青臭い意見 a half-baked opinion‖青臭い(=子どもっぽい)ことをいうな
 
Don’t say such childish things.‖あいつはまだ青臭い男だよ That guy’s still green./
  That guy’s still wet behind the ears.

 あおすじ 青筋 彼は青筋を立てて怒ったHe was so angry (that) his veins stood up.
 (
veinは「静脈、血管」)/His veins stood out with anger./He turned purple with rage.

 上掲の見出し語は「あおい」の解説の中にあるように、その意味を大きく2つに分けることができる。
 
 あおい 青い
 ((色が青い)) blue; green(緑の) ◆青い海 the blue sea [ocean]‖青い芝生 green grass
 ‖青い目の男の子
a blue-eyed boy(◆((英・インフォーマル))ではこの表現は「お気に入り」
 の意味で用いられる)‖青いりんご 
a greenapple‖柿はまだ青い The persimmons on the
  tree(s) are still green.
◆青い(青ざめた)顔してどうしたの? You look pale. What’s the matter?
 ((未熟な)) green ◆きみのやることはまだ青いね You are still green./ You’re still wet behind
  the ears.
(後者は「(人が)経験不足の」の意)「青(い)」という言葉は、空や海の青色、
 植物の緑色、人や言動が未熟な様子、顔色や感情を表現するとき用いられることがよくわかる。

国語辞典では、どのような説明や定義が見られるだろうか。


1. 国語辞典
 『広辞苑』(第五版)の「あお[]」「あおい[青い・蒼い]」では次のようにある。
 
 あお[]   (一説に、古代日本語では、固有の色名としては、アカ・クロ・シロ・アオが
 あるのみで、それは明・暗・顕・漠を原義とするという。本来は灰色がかった白色をいうら
 しい)
@ 七色の一。また、三原色の一。晴れた空のような色。A緑色にもいう。B青信号の略。
 
C青毛の略。俗に,馬一般の代表名としても用いる。D青本の略。E青銭の略。F ?天正カルタ
 の青札の略。
?花札の青短の略。Gある語に関して「若い」「未熟の」の意を表す語

 あおい[青い・蒼い](古くは、目立たぬ色を表す語で、灰色をも含めていった)
  @ 
青色である。緑・藍・蒼・碧に通じていう。A    青白い。B    顔に血の気()がない。
  C(果実などの未熟なものがあおいところから)人柄やする事が未熟である。一般には
 「青」。くすんだあお色や血の気のないあおいろには「蒼」、浅緑色から濃青緑色では「碧」
 も使う。


 『広辞苑』から「青」に関してさらに次のことがわかった。
 イ.古くから「青」という色が存在していた。
 ロ.
「青」は奈良時代では、黒味を帯びた青色を指し、平安時代以降は白身を帯びた青色、
 さらに灰色も含めて指していた。


 さらに、緑について調べてみると次のようである。
 
 みどり
[緑・翠]
 @草木の新芽。また、初夏の若葉。広く、植物一般。A青と黄の間色。
  草木の葉のような色。みどりいろ。
B深い藍色。

 みどりご[緑児・嬰児](近世初め頃まではミドリコ。新芽のように若々しい児の意)3歳ぐらいまでの幼児。

  みどりのころも[緑の衣]六位のものが着用した、緑Bの袍(うえのきぬ)。

 みどりのそで[緑の袖]
 「緑の衣」に同じ。また、六位の異称。


 「青」に対して「緑」は、植物に関する定義が多く、Bでは深い藍色ということでは「青」の意も含まれていることがわかる。本来は色をさす語ではなく、新鮮なつややかな感じを表した語であるといわれている。関連語を調べると、「緑の衣・緑の袖」では、やはり植物のような「緑」ではなく「青(藍)」に近寄った色であることがわかった。そして、「嬰児」は「青」のような未熟という意より、生まれたばかりの愛らしい子という意が伝わってくる。
 これまでのところで、主に日本文化の「青」と「緑」について調べてきたが、英語圏(英米人)の文化では「青」と「緑」をどのように捉えているのだろうか。

1. 英英辞典
 ここでは、Macmillan English Dictionaryで bluegreenに関連する見出し語を調べてみた。まずblueについてである。

 blue/blu/ adj 1 something that is blue is the same color as the sky on a clear sunny day. 
  2 informal feeling slightly sad 3 informal old-fashioned dealing with sex in a way that some people
  find offensive
BLUE MOVIE
  once in a blue moon informal very rarely
  scream blue murder BrE informal to shout or protest very loudly because you are very angry or feeling a lot of pain
  talk a blue streak AmE informal to talk a lot without pausing
  until/till you are blue in the face informal used for saying that there is no use in trying to persuade someone to
   do something because you will not succeed

 
 blue
/blu/ noun [C/U] the color of the sky on a clear sunny day
  the boys in blue informal the police
  out of the blue happening in a way that is sudden and unexpected, and does not seem connected with anything that
   happened before


 ここまでのところで、日本人と同じ見方をしているのは空などに対する色としての「青」である。blue 3のような猥褻なイメージは、日本ではピンクにある。また’the boys in blue’という語句を見て、日本人はまさか警察を意味しているとは想像しがたい。このあとに’blue’を含む23の見出し語があるが、そのうちの3つである。
 
(1)
blue-blooded adj  someone who is blue-blooded comes from a royal family, or a family of a very high social class

この表現は、皇族や貴族といった上流階級の出身という意味である。現代の日本は階級社会ではないが、今日でも英国では階級があり、この言葉に両国の社会制度の相違が伺える。

(2)
blue-ribbon adj.[only before noun] 1 a blue-ribbon group is of the highest quality and is considered the best 2 a blue-ribbon winner is someone who wins first prize in a competition

 英米人にとって、「青」は優秀なものイメージもあることがわかる。実際に
blue-ribbonを見た事はないが、身近な例では世界の優秀なお菓子に選ばれたものの箱には青に金色の文字や印がほどこされた土産を見た事がある。なぜ青いシールだったのか、この表現の意味を知り理解できた気がする。

(3)blue-eyed boy BrE informal a FAIR-HAIRED BOY
 「青い目をした男の子」と英語に訳すときには気をつけたい。スーパー・アンカー・英和・和英辞典にも[通例軽蔑して]お気に入りの男の子という説明があった。日本人はこのような意でもあるという文化的な知識は、辞書を使わなければ気づかないだろう。英英辞典からも背景知識がなければ、すぐに何のことかわからない。そのようなときでも、英和・和英辞典の文化的相違の情報が本当に大切だと実感する。
 次に、greenについてである。
 
 green
/grin / adj. ・1 like grass in color  2 made of green leaves ・ 3 not ready to be eaten ・ 4 protecting environment ・ 5 not experienced 6 when someone looks sick 7 with lots of plants

 be green with envy to feel very unhappy because you wish you had something that someone else has

 have a green thumb AmE to be good at growing plants
 
 やはり日本の「青(い)」にある意味の多くは、英米の文化のなかではgreenにあることがわかる。そして、英米人の「緑」に対するイメージのなかに「嫉妬」という意味がある。
 
 green-eyed monster, the BrE noun HUMOROUS JEALOUSY

(おどけて)「嫉妬」を表す。シェイクスピアの作品Othelloの中に出てくるものである。
 
 green light noun [count]

 a signal that gives traffic permission to move forward
 give something/someone the green light
 to give official approval for something to be done:
 The project has finally been given the green light.

 冒頭で触れた「青信号」である。上の2つの意味は、日本人も同じ考え方である。
 ひとつだけ違うのは、「青信号」はgreen lightと訳すことである。

2.「青」で通じる日本の文化、「緑」で通じる英語
 色に対するイメージの相違「青」と「緑」について、日英の文化を比較してきた。色彩としての見方はほとんど同じである。しかし、和英辞典をはじめ、『広辞苑』、古語辞典、英英辞典を調べていくうちに気づいた事がある。日本の辞書では「青(い)」に関連した言葉が古くから多く使われていた。そして、その意味は広く「緑」という意も含まれていることがわかった。これに対し、英語圏の辞書では「緑」のほうが日本の「青」のように広義で使われている。日本人の「青」に対するイメージは、英米人の「緑」に対するそれに近いようである。

まとめ
「青信号」を例にとっても、日英の文化は「青」と「緑」のイメージに相違がある。異文化のすれ違いをふせぐためにも、和英辞典から文化の違いを知ることが必要である。たしかに、’Blue means青い in Japanese.’ではあるが日本人と英米人の色に対する捉え方がどのように違っているのか、教師が生徒に説明することは不可欠である。和英辞典から学ぶ言葉と文化の「楽しさ」から、英語とその文化だけでなく、日本についてもっと理解を深めるきっかけになる。私が何かのきっかけで子供たちに和英辞典にふれさせる機会があるなら、ひとつの活用方法として「色」をテーマに文化の違いを見る提案をしたい。

参考資料・文献
『広辞苑』岩波書店
『ジーニアス和英辞典』大修館書店
『スーパー・アンカー英和辞典』(第2版) 学習研究社
『スーパー・アンカー和英辞典』(完全新版) 学習研究社
『完訳用例古語辞典』学習研究社  
 日本信号会社
2004/01/10 < http://www.signal.co.jp/home/>
 Macmillan English Dictionary (紀伊国屋書店)
 Phrases, sayings, quotes and cliches, at The Phrase Finder 16 Dec. 2003
 Phrases from Shakespeare 2004/01/10 < http://phrases.shu.ac.uk/index.html>