●この歌は詞・曲とも著作権が消滅しています。
作詞:北原白秋 作曲:弘田龍太郎 Lyrics: KITAHARA, Hakushu Music: HIROTA, Ryutaro English Transltion:YAMAGISHI, Katsuei © |
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(詳細はこちら参照) |
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1. It's raining, it's raining, it's raining more 2. It's raining, it's raining, it's raining more 3. 雨がふります 雨がふる けんけん小雉子(こきじ)が 今啼(な)いた 小雉子も寒かろ 寂しかろ It's raining, it's raining, it's raining more
4. It's raining, it's raining, it's raining more
5. It's raining, it's raining, it's raining more |
次の文章は山岸ゼミ特修生・大塚孝一君(大学院修士課程1年生)がゼミ専用掲示板において、 上記の英訳に付いて書いたものです。興味深い分析ですので、当人の了解を得て転載しておきます。 |
ゼミ生の皆さん 今回は気づいたことを二つ記します。一つ目は前回に引き続き「韻」について、二つ目は「教材」についてです。 【韻】 私が教授の御訳を授業中に拝見したとき、真っ先に気がついたことは「韻」です。みなさんも気がついたとは思いますが、今回は各連の1行目と2行目で脚韻を踏んでいます(第4段落は踏んでいません)。そして、ここからは私の"仮説"ですが、教授は脚韻を踏ませるために、各連の2行目の訳出を文字通りの訳出をされていないということをなさったのではないでしょうか。ただし、原詩のニュアンスは保たれています。具体的に見ていきます。わかりやすい例として、5番の1行目と2行目を取り上げます。 It's raining, it's raining, it's raining more /オア/ (発音記号が出ませんので、各自辞書で確認してください) Day and night, it continues to pour /オア/ (発音記号が出ませんので、各自辞書で確認してください) 上述のとおり、1行目と2行目は脚韻を踏んでいます。教授には大変失礼ですが、非常に美しい韻です。ここで私が思ったことは、なぜ原詩と御訳が文字通りの訳ではないかということです。具体的には、なぜ、「昼もふるふる 夜もふる」という原詩に対して、"Day and night, it continues to pour"となるのかということです。ここからはわたくしの仮説ですが、まず、教授は脚韻を踏むために、moreに対する語としてpour(雨が降る)をお選びになった。普通に訳すとit pours at nightなどとなり、nightが韻を踏むに当たっては"邪魔"になる。そこで、"Day and night"という形で副詞句にし、倒置を可能にさせ、moreとpourで韻を踏ませたということでしょう。しかも、単にit poursではなく、「昼も夜も」の「も」をcontinueという動詞を使って、ニュアンスを保っているという点。どの部分を取っても、わたしたちが学ぶべきところがあります。同様に、2番の「遊びましょう」に対して、"sit on the floor"、3番の「けんけん小雉子が今啼いた」に対して、"A tiny pheasant's calling far away from here"というように、教授は原詩を文字通り訳出なさっていません。しかし、原文のニュアンスは維持されています。私は翻訳を専門学校で体系的に学んだことはありませんが、非常に高度な翻訳技術の部類に入るのではないかと思っています。 少々脱線しますが、韻というのは英語の詩には絶対的に必要なものです。例えばマザーグースを取ってみてもそれが分かるでしょう。それに対して、日本語の詩というのは韻も大切でしょうが、リズムを感じるという一側面においては、やはり七五調でしょう。「七」と「五」が奏でるリズムは、日本人には欠かせないものなのです。短歌や俳句からは、とても美しいリズムを感じるはずです。それに、例えば「君が代」にしても、五七調です。「七」と「五」が紡ぐリズムを美しいと感じるのは私たちが紛れもない日本人であることの証拠なのでしょう。 【教材】 今回の課題曲は5連から成り、各連が3行あることから、かなりの文法的要素が含まれていることに気がつきました。山岸教授の御訳を英語の教材として使うということも十分に可能です。どのような文法事項が含まれているか、各連からどういうことを教師が教えられるのかを、本日教授が教えてくださったことも一部含めて簡単に記していきます。 It's raining, it's raining, it's raining more @天候を表す時は"it"を用いるということ。 A現在進行形の形「be+ing」 B"more"の品詞と意味 CBにからめて、大文字で書いたら有名人になる(Thomas More)。類似の例として、Japanとjapan、Chinaとchinaの違いなど I want to go play outside, no umbrella's here @不定詞の形「to+動詞の原形」 A"go play"という表現から"and"が無くても意味が通じるもの(例:go see the movie、come see meなど) B"outside"の対義語 C日本語の「傘」は比喩的な意味(例:「傘下」)があるが、"umbrella"にも比喩的な意味があるのか。 Dbe動詞の意味とその特徴 And my red geta straps are now snapped @「赤」="red"でいいのか。「深紅」「緋色」など日本語には「赤」を表す単語がある。そして、英語ではどうなのか。 ところで、太陽は「赤」なのか。 A"strap"=携帯電話につける「ストラップ」を連想しがちだが、"strap"はそれだけではない。 B"snap"=手首の「スナップ」にも実は動詞の意味がある。 C日本語を英語にするとき、数に迷ったら複数形にしてしまう。 I'll stay here at home, and sit on the floor @助動詞willの使い方と意味。be going toとの比較。他の助動詞の意味。 Ahomeとhouseの違い。 Bsitの正しい発音(shitとならないように) Cfloorにおける英語と米語の違い Folding colorful paper while the day is swamped @分詞構文の形と意味。 Awhileという接続詞の意味。同類の意味の接続詞の導入。 B受動態の形と意味。英語の受動態と日本語の受動態の違い。 A tiny pheasant's calling far away from here @「鳴き声」という英語はいくつくらいあるか。 Afar awayの発音上の面白さ(「ファー アウェイ」ではなく「ファーラウェイ」)。 B最後の"here"と1番2行目の"here"の違い。 It's green and lonely, cold and lost @"green and lonely"と"cold and lost"という、学習英和辞典にはおそらく載っていないであろう言い回し。 My doll's sleeping on the floor, it's still raining @「寝かせる」にmakeは必要か否か。 Astillから、副詞をどこに置くかということ。 And my final sparkler's fizzled out @「線香花火」は英語で"sparker" A「焚く」はfizzle out Day and night, it continues to pour @副詞句の倒置。なぜ倒置をしているのか。倒置が可能な条件とは何か。 A3人称単数のsの導入。 特に何も見ずに思いつくまま書いてみましたが、上掲のように、中学生用・高校用を問わず、英語の教材として十二分に活用できることがわかると思います。この教授法は、山岸教授が法政大学で教鞭を執られていた際、「講読」の授業(今で言うreadingでしょう)で実際になさっていたものです。 注目すべきは、教授の今回の御訳には、中高6年間で学習する文法事項がほぼ網羅されているということです。中学英語に限って言えば、比較文が無いくらいでしょう。高校英語まで含めると、比較と仮定法が無いくらいでしょう。しかし、比較はmoreの項でも教えることができますし、仮定法はwillのところでも十分に教えることができます。つまり、教授の御訳を活用しようと思えば、高校まで習う英文法事項は全て含まれていることになります。たった一曲の英訳が、中高の教科書6冊分に匹敵する、いや優っているということが言えるわけです。さらに、これは曲ですから、節がついています。しかも、日本の唄です。暗唱するにも非常になじみやすいということが言えます。さらに、今週の課題曲である「あめふり」と比較をしても興味深いかもしれません。 以上、気がついたことを2点書きました。当然、教授のような御訳は一朝一夕にはできません。しかし、御訳から何を学び、それを次にどれだけ活かすか。そして失敗するかというところに、私たちの本分があるように私は考えます。 平成25[2013]年6月24日 大塚 孝一 |