山岸ゼミ 翻訳課題曲


宵待草
(Yoimachi-Gusa)
作詞:竹久夢二(2番補作:西條八十) 作曲:多忠亮
英訳:山岸勝榮
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An Evening Primrose
Lyrics: TAKEHISA, Yumeji (2nd Stanza by SAIJO, Yaso)  
Music: OHNO, Tadasuke
English Translation: YAMAGISHI, Katsuei
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1.
待てど暮らせど 来ぬ人を
宵待草の やるせなさ

(間奏)
今宵は月も 出ぬそうな

I waited and waited, just like an evening primrose
For the one I secretly loved
And so miserable was my day

(Interlude)
This dark evening even the moon seemed not to rise


2.
暮れて河原に 星一つ
宵待草の 花の露

(間奏)
(ふ)けては風も 泣くそうな

I saw only one star high above the riverbed after it got dark
And the evening primrose was full of dew

(Interlude)
As it got late, the wind seemed to whistle too





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イラストはこちらこちらからお借りしました。


以下の文章は私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君の手になるものです。
興味深い比較ですので、同君の了解を得て、転載します。

ゼミ生の皆さん

山岸教授がお訳しになりました「宵待草」の御訳を拝読し、以下に分析を書いていきます。

《第1連》
 まず、私たちが注目すべき点は、just like an evening primroseという表現とその位置です。竹久夢二は彼自身が想いを寄せていた女性を待っていたわけです。つまり、原詞2行目の「宵待草」は自分自身の“投影”とも言えるものです。自分自身を宵待草に喩えていたわけですから、just likeという語が必要です。そしてjust like an evening primroseという語句がwaitedの直後にあることによって、自分が想う人を待っている=夕刻を待って咲く宵待草(本来は「待宵草」)の関係がはっきりとしています。この語句の位置が例えばI waited and waited for the one I secretly loved just like an evening primroseなどとなると、それほど強い関係性を読者[聴者]に分からせることはできないでしょう。waitedの後ろにあるからこそjust like an evening primroseという語がより生きてくるわけです。
 次に注目すべき点はやはりsecretlyです。御訳を拝読したおりに、なぜこの語が選べないのだろうかと悔しい思いをしました。この曲に拘わらず、皆さんは課題曲を英訳する時に、歌詞の背景まで調べる習慣はついていると思います。そして、この歌に歌われていることは逢瀬であることも知っていたでしょう。だからこそsecretlyを使うべきであったのです。たった副詞一語ですが、この語がなければ、この歌自体が普通の恋愛の歌になってしまい、原詞が持つ背景を無視することになります。山岸教授がどれほど原詞を大事になさっていたかがうかがえる御訳と言えます。
 そして最後ですが、my day、seemed not to riseは英語らしい表現ということが言えます。前者は英語圏ではよく聞く表現です。日本語ではdayとmiserableは結びつきません。後者は不定詞にtoを付けるという点で文法的に英語らしいということが言えます。また、「出ぬそうな」という原詞にも忠実であるということが言えます。

《第2連》
 この連で学ぶべき点は詞の“流れ”でしょう。I saw、high aboveとあることにより、夢二が上を向いて、星を見ていることが分かります。それは目にいっぱいの涙がこぼれないようにしているのでしょう。夢二が涙を必死にこらえている姿が山岸教授の御訳から読み取ることができます。そして、その姿は、夕刻を迎えた“宵待草”が花をいっぱいに開かせ、その花弁に露をため、こぼれないようにしている様なのです。そして夜が更けると風が悲しそうに泣いている様が読み取れます。

《時制》
 詩全体を通して、山岸教授は全て過去形でお訳しになっています。この過去形がさらに夢二の悲しみを引き立て、終わった恋だが諦めきれないという想いを読者[聴者]は感じることができます。

平成26[2014]年 2月8日
            大塚 孝一