「月見草」
(Tsukimisô)
文部省唱歌
英訳:山岸勝榮
©

Evening Primrose

Monbusho's Song for School Music Classes
English Translation : YAMAGISHI, Katsuei©



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こちらに「月見草」の歌唱があります。



夕霧こめし 草山に
ほのかに咲きぬ 黄
(き)なる花
(みやこ)の友と 去年(こぞ)の夏
手折
(たお)り暮しし 思い出の
花よ 花よ
その名も ゆかし 月見草

On the grass-covered hill veiled in an evening mist
The quiet yellow flowers bloom
All summer last year, my town-bred friends
And I spent our days plucking
Flowers, flowers of memory
Evening Primrose is that graceful flower's name.



月影白く 風ゆらぎ
ほのかに咲きぬ 黄なる花
都にいます 思い出の
友に贈らん 匂いこめ
花よ 花よ
その名も いとし 月見草

In the white moonlight, swaying in the wind
The quiet yellow flowers bloom
To my town-bred friends whom I remember well
I'll send sweet-scented
Flowers, flowers of memory
Evening Primrose is that lovely flower's name.



風清く 袂(たもと)かろし
友よ 友よ 来れ 丘に
静けくも 月見草 花咲きぬ

The wind is bracing and my sleeves are light
My friends, my friends, come to the hill
Quietly bloom the flowers of Evening Primrose



無断引用・使用厳禁
Copyrighted
©


この歌には著作権はありません。
背景画像と月見草の写真はこちらから借用しました。

以下の文章は私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君の手になるものです。
興味深い比較ですので、同君の了解を得て、転載します。


ゼミ生の皆さん
 
 山岸教授が「月見草」をお訳しになりました。そちらの御訳を拝見し、気がついたところを記します。

《時制》
 原詞の1〜2行目「夕霧こめし 草山に / ほのかに咲きぬ 黄なる花」という箇所を山岸教授はOn the grass-covered hill veiled in an evening mist / The quiet yellow flowers bloomとお訳しになっています。「ほのかに咲きぬ 黄なる花」という箇所の「ぬ」は完了の助動詞ですから「咲い(てい)た」と過去形で表しているということになります。ちなみに、この「ぬ」は終止形ですから、原詞の1〜2行目は、倒置法が用いられています。語順を整理し、現代語訳をすれば、「黄色の花が夕霧が立ちこめる草山にほのかに咲い(てい)た」ということです。この原詞に対し、山岸教授はbloomと現在形でお訳しになっています。原詞は、記憶にある月見草から連想される風景や友人を思い出しているものと解釈できます。山岸教授の御訳からは、“自分”が今目の前にある月見草を見て、そこから思い出される光景を歌にしているということが言えます。

《各連の最終行に見られる技法》

 まず原詞の最終行を確認しましょう。第1連は「その名も ゆかし 月見草」、第2連は「その名も いとし 月見草」です。語順は極めて普通と言えます。山岸教授はこの原詞をEvening Primrose is that graceful [lovely] flower's nameとお訳しになっています。この日英の語順の違いは非常に興味深いものです。
 日本語では英語ほどの語順に“縛られる”ことはありません。内容語と機能語が意味的なかたまりをなしていれば、そのかたまりは文のどこへおいても基本的に問題はありません。ただ、普通の語順では、多くの場合文の最後に重要な点が述べられます。それは、文だけではなく、文章でも同じことです。昔からある「起承転結」に関しても同様のことが言えます。一方の英語では、重要なことは先に先に言う傾向があります。
 加えて、第1、2連の最終行は連の最後ということもあり、クライマックスと言えるでしょう。歌詞に多いと思いますが、この「月見草」のように、題名を繰り返し、聴者に強い印象を与え、余韻を残すということがなされます。ぱっと思いついたものは、石川さゆりの「津軽海峡冬景色」、大川栄策の
「さざんかの宿」などです。おそらくJ-popでもこのような手法は取り入れられているように思えます。
 少々“脱線”したところもありますが、以上の点を踏まえて、山岸教授は最終行を倒置で訳されたと考えられます。
 第3連の最終行についても、山岸教授は倒置法でお訳しになっています。こちらは歌の最後ということで、印象よりも余韻を重視なさり、“主役”であるEvening Primroseを動詞の後ろに置かれたのではないかと考えます。

平成26[2014]年
 1月19日
   大塚 孝一