りんごのひとりごと
(Ringo-no-Hitorigoto)
作詞
:武内俊子 作曲:河村光陽
英訳:山岸勝榮 ©

An Apple is Talking to Herself so Charmingly
Lyrics: TAKEUCHI, Toshiko  Music: KAWAMURA, Koyo
English Translation: YAMAGISHI, Katsuei ©



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1.
私は真っ赤な りんごです

  お国は寒い 北の国
  りんご畑の 晴れた日に
  箱につめられ 汽車ぽっぽ
  町の市場へ着きました
  りんご りんご りんご
  りんご 可愛い ひとりごと

  I am a pretty, deep red apple   
M
y home is in a cold district, way up north  
O
n a fine day in the apple field   
I was packed in a box and was on a choo-choo train   
And got to a town vegetable market   
An apple, apple, apple   
An apple is talking to herself so charmingly


2.
くだもの店
(みせ)のおじさんに
  お顔をきれいに みがかれて
  皆んな並んだお店先
  青いお空を 見るたびに
  りんご畑を 思い出す
  りんご りんご りんご
  りんご 可愛い ひとりごと

    All their faces are polished till they shine    
By the master of the fruit shop    
And are displayed in front of the shop    
Every time I see the blue sky    
I think of the apple field where I was born
An apple, apple, apple   

An apple is talking to herself so charmingly


3.
今頃どうしているかしら

  りんご畑のお爺さん
  箱にりんごを つめながら
  歌をうたって いるかしら
  煙草
(たばこ) ふかして いるかしら
  りんご りんご りんご
  りんご 可愛い ひとりごと

    What can he be doing now, I wonder   
The old man in the apple field?    
Is he singing his favorite song aloud    
Packing apples in the box?    
Or is he puffing on his favorite pipe?    
An apple, apple, apple

An apple is talking to herself so charmingly

    



無断引用・使用厳禁
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©



この歌には著作権はありません。


以下の文章は私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君の手になるものです。
興味深い比較ですので、同君の了解を得て、転載します。

特修生の皆さん

山岸教授の御訳An Apple is Talking to Herself so Charminglyを拝見し、以下に私の意見を述べていきます。

《prettyが持つ重要性》
第1連1行目にはI am a pretty, deep red appleという英訳がありますが、原詞に文字として表されていないprettyがあります。このprettyが持っている重要性は、とりわけ日本の唱歌・童謡を訳す上で必要なものです。
 唱歌や童謡は様々なものや事柄が題材になっています。前期・後期の課題曲を通じて取り組んできた課題曲だけを見ても、「季節」「日本の風景」「子供(たち)」「動物」「(初)恋」などがあります。その中でも「子供(たち)」「動物」などは基本的に“かわいらしい”“愛らしい”対象として取り上げられています。たとえ、そのような形容詞(相当語句)などが原詞に表れていなくても、それを心の奥底で感じている、あるいは感じることができるのが日本人である“証拠”とも言えるでしょう。
 この曲におけるprettyにも同様のことが言えます。この曲の原詞を読んだり聞いたりすれば、りんごがかわいらしいものとして取り上げられていることを感じるでしょう。その点を山岸教授は英語で表されたということです。
もちろん、唱歌や童謡の英訳は、リズムとの兼ね合いもありますから、一概に「かわいい」対象にはprettyが必要であるとは言いきれません。しかし、少なくとも、上述の点は、私たち特修生が気づくべき点であります。

《where I was bornが持つ重要性》

山岸教授御訳には、第2連5行目にwhere I was bornという表現があります。「りんご畑を思い出す」という原詞に対する英訳の一部ですが、このwhere I was bornがもしなければ、I think of the apple fieldのみとなり、単純に「(特定の)りんご畑を思い出す」という意味に止まります。しかし、原詞はそのようなことを歌っているのではありません。この「りんご畑」とは自分の生まれた畑のことです。日本人であれば、そう感じるでしょうし、またそう感じなくてはいけません。山岸教授の御訳で示すのであれば、この「りんご畑」は第1連2行目のMy homeにあたるのです。
 第1連はりんごの“自己紹介”と、とある日を描写しています。第2連、3連では、りんごが故郷を思い出す光景、いわば、りんごの“望郷”を歌っているわけです。山岸教授が英訳なさったwhere I was bornがあることにより、第2連の主旨と、第3連へのつながりが明確になるのです。

《favoriteが持つ重要性》

ゼミ生の皆さんも気がついたでしょうが、山岸教授御訳の第3連3行目、5行目には、favoriteが用いられています。この語の意味は文字として原詞には表れていません。しかし、この語は、先に述べたprettyやwhen I was born同様、極めて重要な働きを持っています。結論から述べれば、このfavoriteは、同連最終行のcharminglyを際立たせる語であるということです。もしこのfavoriteが無ければ、charminglyという副詞はあまり効果を持ちません。原詞を読めば、いずれの連も1行目から5行目まで「りんごのひとりごと」をりんごの“目線”で歌っている歌であり、その「ひとりごと」を受けて、残りの2行で第三者の視点から“まとめている”ということがわかります。そして、いずれの連の「ひとりごと」も“かわいい”ということが、用いられている語句(歌詞)と、日本文化における“りんご”の存在感、いわばりんごの文化的意味から、感じ取れます。しかし、いったん字面のみを英語に訳してしまうと、その“かわいさ”が失われ、あくまでもappleとしてしか英語圏の人々には理解されません。しかしfavoriteがあることにより、そのappleがいつも見ていたおじいさん、そのおじいさんが口ずさんでいた“あのお気に入りの歌”、そして、くわえていた“あのお気に入りのたばこ”というように、単なるappleではなく、日本文化におけるりんごの位置づけまでも含んだappleになるのです。換言すれば、「りんご」とappleにある文化の差を埋めるためにfavoriteがあるのです。だからこそ、charminglyが単にcharminglyではなく、日本語に近いcharminglyという解釈が成り立ちます。
 ちなみに、charminglyを引き立てる語句として用いられている英語は、第1連ではpretty、第2連ではtill they shineということが言えると思います。

 原詞は極めて平易な日本語ですが、その日本語をどこまで深く感じ取れるか、そしてそれをどのように英語に訳すかという翻訳の難しさ、楽しさを感じます。
 ちなみに、youtubeに英語に訳された同曲がありました。山岸教授の御訳とそちらの英語を比較対照すると興味深い結果を得られると思います。
 URL: http://www.youtube.com/watch?v=3eb9bV9Z7hk

平成26[2014]年2月21日
  大塚 孝一