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荒城の月
(Kõjõ-no-Tsuki)

作詞:土井晩翠 作曲:瀧廉太郎 
英訳:山岸勝榮
©

The Moon over the Ruined Castle
Lyrics: DOI, Bansui
Music: TAKI, Rentaro
English Translation: YAMAGISHI, Katsuei ©



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土井晩翠(1871−1952)が白虎隊の激烈な死に象徴される会津落城に深く心を動かされて書いた詩と言われる。これに、23歳10か月で早世した天才作曲家・瀧廉太郎((1879-1903 )が曲を付けた。国の内外で知られる名曲である。ちなみに、廉太郎がイメージしていた城は少年期 (12〜14歳)を過ごした大分県竹田市の岡城址だったと言われる。

こちらにmp3の音源がある。
こちらに尺八演奏による「荒城の月」がある。
こちらに宗次郎のオカリナ演奏による「荒城の月」がある。
こちらに山口淑子(よしこ)が歌う「荒城の月」がある。
こちら伊藤久男が歌う「荒城の月」がある。





1.
春 高楼(こうろう) 花の宴(えん)
巡る盃
(さかづき) 影さして
千代の松が枝
(え) 分け出でし
昔の光 今いずこ

On the castle tower in the spring, a cherry-blossom-viewing feast
Exchanging cups of sake, the moon dancing in each

Branches of pine trees shooting out, they've grown a thousand years

Where ever have the glorious old days gone?


2.
秋陣営の霜の色
鳴きゆく雁
(かり)の数見せて
植うる剣
(つるぎ)に照り沿いし
昔の光 今いずこ

On the battlefield campsite in the autumn, a cold layer of frost
Wild geese honking in flight, you can count them in the clear moonlight
The pine trees like swords stuck in the ground, the cold moonlight
makes the shine
Where ever have the glorious old days gone?


3.
今荒城の夜半(よわ)の月
変わらぬ光誰
(た)がためぞ
垣に残るはただ葛
(かずら)
松に歌
(うと)うはただ嵐

Over the ruined castle at midnight, the bright moon shining
As ever it shined, for whom does the moon shine so bright?

Only vines on the castle wall, climbing up

Can you hear anything but the wind as it blows?


4.
天上(てんじょう)影は 変わらねど
栄枯
(えいこ)は移る 世の姿
映さんとてか 今も尚
(なお)
ああ荒城の夜半
(よわ)の月

In the sky, past and present, the ever-lasting moon
Rising and falling, the ever-changing world

Is the moonlight telling us how the world goes?
Ah, the midnight moon over the ruined castle





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以下の文章のうち、最初の文章は、私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君、
あとの文章は現ゼミ生の草皆
(くさがい)高広君の手になるものです。興味深い比較ですので、両君の了解を得て、転載します。

ゼミ生の皆さん

 今回の課題曲「荒城の月」の原詞にはいわゆる体言止めの歌詞が五カ所あります。以下の通りです。

 1 春高楼の 花の宴
 2 秋陣営の 霜の色
 3 今荒城の 夜半の月
 4 栄枯は移る 世の姿
 5 ああ荒城の 夜半の月

 その内、連体修飾の機能を持つ動詞を含んでいないものは、4番を除いたものです。
 実は、この体言止めの訳出方法を以前より考えていたのですが、今回の課題曲の英訳出、ならびに教授の御訳を通して、手応えを感じましたので、以下に分析を記します。
 山岸教授の御訳は、いずれの唱歌、童謡でも原詞に忠実であることは皆さんすでに知っていることと思います(夏休み中のわたくしの英訳比較をしっかり読んでいれば、理解できるでしょう)。そして、その“忠実度”は、原詞の内容だけではなく、語順にまで及ぶこともしばしばです。今回の「荒城の月」における教授の御訳を原詞と共に記します。

 1 春高楼の 花の宴 On the castle tower in the spring, a cherry-blossom-viewing feast
 2 秋陣営の 霜の色 On the battlefield campsite in the autumn, a cold layer of frost
 3 今荒城の 夜半の月 Over the ruined castle at midnight, the bright moon shining
 5 ああ荒城の 夜半の月 Ah, the midnight moon over the ruined castle

 1番と2番がまさに、上記の典型例です。1番のみ解説します。意味の面では、「春高楼の」という七音に対するon the castle tower in the spring、そして「花の宴」の五音に対するa cherry-blossom-viewing feastという対応関係が見て取れます。しかし、それだけに止まりません。語順の面では「春高楼の」は「春」+「高楼」+「の」というように単語に分けられます。これがそれぞれ、in the spring+the castle tower+onという単語で表されているわけです。続いて、「花の宴」の主要部は「宴」です。これがa cherry-blossom-viewing feastと訳され、主要部は原詞の「宴」にあたるfeastになるわけです。おそらくここまでお考えになって教授はお訳しになっているものと思われます。2番も同様のことが当てはまります。
 では、3番はどうでしょう。3番は、brightとshiningが原詞にはないものと考えられます。これは以前私が分析した、「リズムに乗せるため」の名詞の補足説明と考えられます。brightとshiningがないと、“字足らず”ならぬ“単語[音節]足らず”になり、歌詞の翻訳としては適切性を欠いてしまいます。それを防ぐための補足訳と考えていいでしょう。
 5番は、今までの御訳と異なり、順番が異なります。5番の歌詞はこの詞を締めくくる最後のものですから、起承転結で言えば「結」です。そして、題名に酷似していることを考えると、題名と同じように訳出なさったのでしょう。
 また、今回の「荒城の月」以外にも、このような体言止めの歌詞は見られます。
 6 春のうららの 隅田川 A lovely day, a beautiful day on the Sumida River
 7 赤い鳥 小鳥 The red birds, pretty little birds
 8 山田の中の 一本足の案山子 One-legged scarecrow set up in the hillside rice field
 6番、7番は解説不要だと思います。8番は順番が原詞と異なります。これはset upが鍵を握っています。原詞を訳すには、set upは不要です。つまり、one-legged scarecrow in the hillside rice fieldでも十分に通じます。しかし、これでは、先ほどの“単語[音節]足らず”になります。それを防ぐためにset upを形容詞的に機能させることで、この問題を解消しているわけです。
 また、同じ体言止めでも、4番のように、連体修飾の動詞が入る場合があります。
 4 栄枯は移る 世の姿 Rising and falling, the ever-changing world
 山岸教授は上記のように英訳なさっています。このような連体修飾の動詞がある、いわゆる「名詞節」でも原詞の内容とその語順は英語でも保たれています。
 最後に少々今までの例とは異なるものを挙げます。
 9 濡れて帆上げた 主の舟
 10 この道はいつか来た道
 9番は体言止めであり、かつ名詞節でもあります。この原詞に対して山岸教授はMy master's boat, he raised sails in white waterとお訳しになっています。意味は忠実でありますが、英語の語順が原詞と比べると、前後しています。山岸教授の御訳をそのまま用いて語順を正せば、He raised sails in white water, my master’s boatとなります。しかし、これでは、代名詞heの機能が非文法的なものになります。そこで、My master raised sails in white water, his boatとすると、リズム面でも、原詞の意味の面でも忠実度が低くなります。そこで、教授はやむを得ず語順の忠実度の代わりに、原詞の忠実度を優先なさったということでしょう。ここで分かることが一つあります。それは、意味と語順の忠実度は前者の方が優先されるということです。
 10番は、確かに体言止めですが、「いつか来た道」の後ろに「だ」あるいは「です」が省略されているものと考えるのが普通です。よって、名詞句の構造では無く、普通の文として認識できますので、教授はThis must be the same path that I once walked alongとお訳しになったということが言えます。

 このように、山岸教授の御訳に見られる原詞への忠実度は、歌詞だけではなく、語順にも見られるということが言えます。
 歌詞の翻訳は意味や語順だけではなく、リズムに乗らなければ意味がありません。つまり、意味と語順とリズム、ぞれぞれの面から最善の訳を試みる必要があります。よって、今後体言止めが歌詞に含まれていた場合、上記の分析に当てはまらないことが出てくる可能性もあります。現段階での“仮説”とし、今後も検証していきます。

平成25[2013]年
   12月2日
     大塚 孝一



◆以下の文章は、私が当日のゼミを受講生諸君に任せたために、授業終了後の私への報告という形になっています(山岸)。

山岸勝榮先生
下記に本日のゼミで持ち上がった内容とわたくしどもが先生の御翻訳を拝読することで誤読として理解した箇所を書き記します。

原詞と先生の御翻訳の後にわたくし達がゼミで検討し合いました内容を記して参ります。

まず第一連目です。

春 高楼
(こうろう)の 花の宴(えん)
巡る盃
(さかづき) 影さして
On the castle tower in the spring, a cherry-blossom-viewing feast
Exchanging cups of sake, the moon dancing in each
 この箇所は巡る盃とは何を表しているかでそれぞれに意見が異なりました。佐々木君は大きな盃を全員で飲み回している情景を思い浮かべわたくしは小さな盃を皆で回している情景でございました。先生の御翻訳によりその正しい解釈が単にそれぞれの盃を交換し合っていることと分かり、またthe moon dancing in each はやはりこの様な表現が出てこないところに日本語理解が足りないところと認識いたしました。

千代の松が枝
(え) 分け出でし
昔の光 今いずこ
Branches of pine trees shooting out, they've grown a thousand years
Where have the glorious old days gone?
 この箇所は高浦さんが千代の解釈を幾千年と表現しておりそれに対してわたくしはやはり何百年レベルの解釈であるべきと伝えましたがどうやら高浦さんの解釈が正しそうです。そして昔の光をほとんどのゼミ生はたんにlightと解釈しており先生のようにdaysと考える者は一人もおりませんでした。

次に二連目です。
秋陣営の霜の色
鳴きゆく雁
(かり)の数見せて
On the battlefield campsite in the autumn, a cold layer of frost
Wild geese honking in flight, you can count them in the clear moonlight
 この箇所は皆正しく解釈していたようですが問題は次の箇所です。

植うる剣
(つるぎ)に照り沿いし
昔の光 今いずこ
The pine tree like swords stuck in the ground, the cold moonlight makes the shine
Where have the glorious old days gone?
 皆この箇所は全く見当がつかず昔の城跡に剣が刺さっているのだろうと考える始末でした。やはりこういったところにわたくし達の日本文化の理解の拙さが表れたと思います。

次に三連目です。
今荒城の 夜半
(よわ)の月
変わらぬ光 誰
(た)がためぞ
Over the ruined castle at midnight, the bright moon shining
As ever it shined, for whom does the moon shine so bright?
 ここは誰がためぞの解釈が先生のようにfor whomか単なるwhoであるかで分かれました。わたくしは「誰がために鐘はなる」が for whom the bell tolls から前者と取りました。

垣に残るは ただ葛
(かずら)
松に歌
(うと)うは ただ嵐
Only vines on the castle wall, climbing up
Can you hear anything but the wind as it blows?
この箇所も日本語箇所と英語箇所を共に充分に理解したゼミ生はおりませんでした。わたくし達の苦手とした部分でした。

最終連は以下の通りです。
天上
(てんじょう)影は 変わらねど
栄枯
(えいこ)は移る 世の姿
In the sky, past and present, the ever-lasting moon
Rising and falling, the ever-changing world
 ここは天上を全員単なる空と解釈し、誰も空に浮かぶ月のことを指していると理解しませんでした。

映さんとてか 今も尚
(なお)
ああ荒城の夜半
(よわ)の月
Is the moonlight telling us how the world goes?
Ah, the midnight moon over the ruined castle
 ここは「映さんとてか」が具体的になにを表したものか分かりませんでした。

 総括ですが誰一人充分に日本語が示す内容を把握できたものはおらず、その誤読をそのまま英語に表そうとしたためとんでもなくひとり勝手な訳が出来上がりました。先生の御翻訳との比較でいかに日本語を理解していないかがまたもや浮き彫りになりました。その点がわたくし達の一番大きな課題であると思います。その点もゼミの最後に皆に伝えました。

以上でございます。
   12月3日
     草皆 高広