黄金虫(こがねむし)
(Koganemushi)

作詞:野口雨情 作曲:中山晋平
英訳:山岸勝榮(C)

The Gold Beetle
Lyrics: NOGUCHI Ujo  Music: NAKAYAMA Shinpei

English Translation: YAMAGISHI Katsuei (C)



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(C)
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MIDI


     


1.

黄金虫は金持ちだ
金蔵(かねぐら)建てた 蔵(くら)建てた
飴屋(あめや)で水飴(みずあめ)買つて来た

The gold beetle is a millionaire
He amassed a fortune and built a treasure-house

He bought some thick malt syrup at the candy store
 

2.

黄金虫は金持ちだ
金蔵建てた 蔵建てた
子供に水飴 なめさせた

The gold beetle is a millionaire
He amassed a fortune and built a treasure-house
He let his children lick all the syrup they desire
d



無断引用禁止

Copyrighted




この歌には著作権はありません。
MIDIはこちらから、黄金虫のイラストは
こちらから、それぞれお借りしました。




以下の文章は私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君、および現3年生の草皆高広君の手になるものです。
興味深い比較ですので、両君の了解を得て、転載します。


特修生の皆さん

山岸教授の御訳The gold beetleを拝読し、以下に意見を述べていきます。

《第1連1行目》
山岸教授御訳では、「金持ち」に当たる訳語はa millionaireとなっています。もちろん、richが間違いではありませんが、より適切な語がmillionaireなのです。おそらく、山岸教授はThe gold beetle(黄金虫)のgoldと“相性”がいいのはrichではなく、millionaireであるとご判断になったと思われます。それだけではなく、原詞の「水飴」との関連もあると私は考えております。この点は後述します。
 日本では虫をそれほど忌み嫌うことはしません。例えば「虫の声」では様々な虫が登場し、秋の夜に響く虫の声が歌として奏でられています。一方、英語では虫(insect)は歓迎されない傾向が強いことで知られています。『スーパー・アンカー英和辞典』にもその点は記述されています。
 調べたところ、黄金虫は日本であろうと英語圏であろうと、ガーデニングをする上では“害虫”として認識されているようです。そのような“害虫”を童謡にする日本人の“柔軟な”発想も興味深いですし、それを英訳する際の“限界”、具体的にはプラスイメージのものを英訳すると必然的にマイナスイメージになるという現象、を感じることも一つの勉強ではないでしょうか。

《第1連2行目》
「蔵を建てる」という慣用句は「大金持ちになる」という意味ですが、山岸教授はamass a fortuneというように英訳なさっています。「富を築き上げる」という意味ですが、前行のmillionaireとの相性がよく、前行とのつながりが非常に明確になっているということがわかります。そして「水飴」との関係も見逃すことはできません。「富を築き上げた」からこそ、「水飴」が買えるわけです。「水飴」の件は後述します。
 そして、a treasure-houseという訳語から、財宝でいっぱいになった黄金虫の家を容易に想像することができます。

《第1連3行目》
この行に関しては二つの点で注目すべきことがあります。まずは、「水飴」の訳語です。山岸教授はthick and molt syrupとお訳しになっています。thickは「どろどろした」という意味。maltは「麦」。そしてsyrupは「飴」という意味ですが、日本独特の「水飴」を簡潔な説明的訳語で表されていることがわかります。
 続いて、someにも注目する必要があります。この語を使用できることが、英語が分かっているか否かを“証明”していると個人的には思います。このsomeは前期課題曲の「鳩」にあるsomeと同義です。英語らしさを表すsomeと言えます。

《第2連3行目》
同行にあるall the syrup they desiredという語句の存在意義を無視することはできません。いわゆる“直訳”をすれば、He let his children lick the syrup.となります。しかし、これでは、「金持ち」という語から「水飴をなめさせる」行為への“つながり”が全く理解できません。ここでは、山岸教授がよくおっしゃる「古のものは古の目で見よ」ということが必要です。
 この歌が作られたのは大正11年。おそらく大金持ち(まさしくmillionaire)でないかぎり、「甘いもの」というのは庶民にはほど遠い存在だったのだと思います。金持ちだからこそ、水飴を子供になめさせることができたのでしょう。しかし、それだけではありません。山岸教授はallという代名詞をお使いになっています。つまり、「子供たちが欲しがった水飴を“全部”」という意味です。一般的に、子供は「甘いもの」が好きですから、彼らが望む水飴の量も多いものであったでしょう。それを全部(all)与えられるわけですから、この“黄金虫”はそうとうの大金持ちということになります。このことからもrichなどという形容詞では、“物足りない”ということが言えますし、なによりもall the syrup they desiredという語句の存在意義が分かります。

平成26[2014」年2月24日
           大塚 孝一


特修生の皆さん

先生のお訳しになった「黄金虫」の原詞は簡潔な表現ですが先生の英訳を読む中で下記の訳はには大変学ぶところがありました。

金蔵(かねぐら)建てた 蔵(くら)建てた
He amassed a fortune and built a treasure-house

通常の訳では「蔵」はstorehouseかwarehouseですが先生はtreasure-houseとお訳しになっています。そして「金蔵を建てる」は現代の日本人はそのまま「金の詰まった蔵を建てる」と捉えてしまうところですが「amassed a fortune」
とお訳しになった歌詞を見ることでそうではなく財産家になる意味であることがわかりました。やはり私自身の日本語に対する勉強不足を痛感します。

子供に水飴 なめさせた
He let his children lick all the syrup they desired

この箇所は「all the syrup they desired」と何故お訳しになったのかその意味を考えることで学んだことがあります。単に日本語の「水飴」をそのまま訳すのではなく原詞の正確な意味を徹底的に突き詰めると先生のお訳しになった形に帰着するのであると。こういった先生がお見せくださる訳のプロセスの妙も更に学んで参りたいと存じます。

平成26[2014」年2月26日
           草皆 高広