冬の夜
(Fuyu-no-Yoru)
作詞:不詳 作曲:不詳

英訳:山岸勝榮
©

A Winter Night
Lyrics & Music: Unknown
English Translation: YAMAGISHI, Katsuei ©




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mp3「冬の夜」
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1
燈火
(ともしび)ちかく 衣(きぬ)縫ふ母は
春の遊びの 楽しさ語る
居並(いなら)ぶ子どもは 指を折りつつ
日数(ひかず)かぞへて 喜び勇む
囲炉裏火(いろりび)は とろとろ
外は吹雪
(ふぶき)

Mom sits near the light doing needlework
Telling how pleasant it is to play games in Spring
All the children present there look forward to the season
Counting the days on their fingers and are all excited
The fire on the hearth is feeble and weak
Outside the house a snowstorm is raging



2
囲炉裏の端
(はた)に 繩
(なわ)なう父は
過ぎしいいくさの 手柄(てがら)を語る
居並ぶ子供は ねむさを忘れて
耳を傾(かたむ)け こぶしを握る
囲炉裏火は とろとろ
外は吹雪

Dad is making straw ropes by the hearth
Telling his distinguished service in the last war
All the children present there forget their sleepiness
Listening to his talk with their hands clenched in excitement
The fire on the hearth is feeble and weak
Outside the house a snowstorm is raging





無断引用・使用厳禁
Copyrighted©




☆この歌には著作権はありません。
☆縄綯(な)いのイラストはこちらから拝借





以下の文章は私のゼミの特修生で大学院博士前期課程1年生の大塚孝一君の手になるものです。
興味深い比較ですので、同君の了解を得て、転載します。


特修生の皆さん

山岸教授の御訳A Winter Nightを拝読し、以下に分析を記します。

《類韻》
 「類韻」とは、語中の母音が韻を踏んでいるものです。山岸教授御訳には、二つの「類韻」が認められます。一つはfeeble and weak、もう一つはOutside the houseです。
 feeble and weakは原詞の「とろとろ」にあたります。日本語の押韻は多くの場合、頭韻を踏むことが多く、今回の「とろとろ」もそれに当たります。擬態語ですから、英訳の際には、できるだけそのニュアンスや音の特徴も踏まえた訳出が必要になってきます。山岸教授はこの頭韻の「とろとろ」に対して、feeble and weakという、類韻を含んだ表現をお使いになりました。feebleにもweakにも/i:/という音が語中に存在しています。原詞のニュアンスも保たれていますし、原詞のように頭韻ではないものの、類韻で押韻させることで、音の面にも凝って訳出なさったということが言えます。
 もう一つのOutside the houseですが、outsideとhouseには/au/という二十母音が重複しています。これが類韻です。この英語表現が表す原詞はというと「外は」になります。原詞は韻を踏んでいません。では山岸教授はなぜここで類韻をお使いになったのでしょうか。もちろん、音の面での“遊び”の要素もあると思います。しかし、それだけではなく、英語の厳密性、言い換えれば、「英語の論理を保つ訳語」であると私は考えます。この点については、後述します。

《論理を保つ訳語》
 今回の山岸教授の御訳には「論理を保つ訳語」が五つ用いられています。順番に見ていきます。
 まず第1連2行目のplay gamesのplayです。原詞は「春の遊びの楽しさ語る」となっています。直訳をすれば、playは出てきません。しかし、このplayがあることにより英語らしさが出てきます。日本人であれば、「スポーツはおもしろいね」という表現に普通は何の違和感も抱きません。しかし、英語の世界では「見るのが楽しいのか」「するのが楽しいのか」「応援するのが楽しいのか」などということを“気にする”必要が出てきます。「冬の夜」では、冬の間は雪が降り、外で遊ぶことがままならないという光景を歌っており、その上で春が待ち遠しいわけですから、「見る遊び」よりも「する(play)遊び」の方が適切だということが言えます。山岸教授は単にgamesとするのではなく、playを訳出なさり、原詞が意味するところを詳しく表現なさっていることが分かります
 次はlook forward to the seasonです。正確に言えば、この英語表現にあたる原詞はありません。しかし、第1連3行目の「指を折りつつ」という箇所から、先ほども書いた様に、春を「待ち遠しく思う気持ち」がくみ取れます。さらに言えば、もしlook forward to the seasonがなければ、何のためにcounting the daysをしているのかが明確ではなくなります。counting days という英語表現から思い出されることは、山岸教授がお訳しになりました「お正月」です。山岸教授は「もういくつ寝ると お正月」をLet's count the days until the greatest dayとお訳しになりました。この御訳においてもlet’s count the daysに後続してthe greatest dayがありますから、指を数える意味とその光景が明確になっています。「お正月」と同様の翻訳技法がなされているということが言えます。
 三番目は最終行にあるragingです。原詞は「外は吹雪」ですが、山岸教授は同行をOutside the house a snowstorm is ragingとお訳しになっています。天気を表す英語はいくつかあります。itを主語に立てることもできますし、weを主語に立てることもできます。他にも名詞で表すか、形容詞で表すか(例rain / rainy, snow / snowyなど)という問題もあります。さらに言えば、唱歌や童謡の英訳ということであれば、リズムとの兼ね合いがあるので、訳出の難易度は増します。山岸教授はsnowstormを主語に、そしてrageを動詞になさっています。しかも時制が現在進行形になっているため、同行には臨場感が生まれ、目の前の光景を鮮やかにする工夫が為されています。
 四番目は第2連4行目にあるin excitementです。この御訳も原詞には文字として表されていません。しかし、in excitementがあることにより、his distinguished serviceを聞いたthe childrenがhis talkの内容に奮い立っている様子が分かります。his distinguished serviceを受けたhis talkへの流れ、そしてそのtalkに耳を傾ける子供達の様子が的確に表現されているということが言えます。
 最後は前章でも取り上げた最終行のoutside of the houseのthe houseです。もちろん、outsideだけでも意味の上では問題ありませんが、the houseがあることにより情景をより明確に示すことができます。最終行までは「家」の中のことが歌われており、最終行では「家」の外のことが歌われているということを考えると、outsideにはやはりthe houseを入れることで明確な線引きが為されています。また、前述したように、類韻を踏むことで音の面では非常に心地よいものになっています。

平成26[2014]年3月5日
         大塚 孝一