26.学習意欲を欠くクラスでの英語の授業の進め方 
      ― 私の場合 ―



 昨年(2003年度)、私は某大学の某学部(不動産関連)で2年生の1クラスに英語を教えた。登録者30名、教科書は統一のもので、H. Douglas Brown: Voyages―Getting Started (Prentice Hall Regents, 1998)であった。初日(5時限目)、教室に行き、予想していたことだが、学生達の態度に落胆した。英語学習に臨もうとする姿勢はほとんどまったく感じられなかった。すでに眠り込んでいる者、携帯電話をいじっているもの、漫画を読んでいる者、友達と飲み物を飲みながらおしゃべりに興じている者等が目立った。教科書を購入してきている者は数名に過ぎなかった。遅刻者も目立った。
 上記教科書の英語は我が国の中学1、2年生程度のものである。12のユニットからなり、各ユニットは、きわめて簡単な対話から成る。すべてネイティブ・スピーカーによる吹き込みテープが用意されていた。対話が終わると学生達が反復練習できるように構成されており、チェックポイントや前出の暗記用の重要表現も用意されている。
 第1ユニットを例にとる。これはMeeting Peopleと題されたもので、初対面・再会の挨拶、計3例が収録してある。次の通りである。


Tony: Hi. My name’s Tony.
Oscar.
Hello. I’m Oscar.
Tony:
 It's nice to meet you.  
Oscar: Nice to meet you, too.

     
     Yumiko:
Hi, Lynn. How are you?
      Lynn: I'm fine, thank you. And you?
     Yumiko: Fine, thanks.
       

     
     Oscar:
Tony, this is Lynn.
     Tony:
It's nice to meet you, Lynn.
     Lynn
: Nice to meet you, too.

英語の難度は上記の通り、中学1、2年生程度のものであり、きわめて日常的なものばかりである。全ユニットを通じて、英語のレベルは変わらない。教師用マニュアルにしたがいテープを回し、学生達に聞かせ、反復練習をさせようとするが、第1週、第2週と、ほとんどの学生達が教科書の英語・内容・テープ録音に興味を示さなかった。「英語には興味がない」と断言する者も多く、前途が危ぶまれたので、そのような場合に対処するために前もって練ってあった方策を第3週から導入した。それは次のようなものである。

 @  まず、学生達に英語と英語圏文化に興味を抱かせる工夫をする(最重要事項)
    上掲第1ユニットの対話を例にとって言えば、私は学生達に次のような質問を日本語または英語で頻繁に行った。

 ◆  上の対話における英語では、My name's Tony., I'm Oscar., It's nice to meet you.では My name's, I'm, It's niceのように短縮形が用いられているのに、Tony, this is Lynn.の場合はThis's とはなっていない。これはなぜか。学生達はこの質問に大いに興味を示した。

 ◆  前出3例の対話を日本語に訳した場合、日本語ではそういう言い方はしないと思われるものはどれか。学生達はこの質問に大いに興味を示した。

 ◆  英語ではなぜ、いちいち相手の名前を文頭・文尾などに付けると思うか学生達はこの質問に大いに興味を示した。

 ◆    It's nice to meet you./ Nice to meet you.のような言い方とHow do you do?とではどちらが改まり度が高いと思うか。また、それらを日本語に直せばどのような日本語が適当か。学生達はこの質問に大いに興味を示した。

 ◆   Good morning [afternoon / evening]. I'm Tony. / Hi, Tony. My name's Oscar.のような対話例も反復練習用に収録されているが、そのような場合には、英語のGood morning [afternoon /evening].と日本語の「おはようございます[こんにちは /こんばんは]との間に使用時間帯の違いはあるか。“Morning!” “Afternoon!” “Evening!”とだけ言えることを紹介し、それらの言い方がどのような日本語に相当するかも説明した。学生達はこれらの質問や事実に大いに興味を示した。
 また、@を実行するのに伴い、学生達に、彼らがすでに多数の英語の単語を知っているという事実に気付かせた。たとえば、教科書にパソコンを使う場面やそのイラストが掲載されているので、学生達に彼らが知っているカタカナ語(その多くは正確な英語としても使用可能)を列挙させる。それで挙がってきた単語の一部が次のようなものである。学生達が口頭で言ったものを私が英語に直し、アルファベット順に並べた。次はそのFまでの例である。

   
   access, access point, access time, account, address, application, archive, area code,
   backup, banner advertisement, bit, body, bookmark, browse, browser, buffer, channel,
   character, chat, chatter, chip, click, client, clipboard, command, comment,
   compatibility, complete, component, compose, compress, compression, computer,
   computer literacy, connect, connect time, cookie, copy and paste, cracker, cursor,
   customize, cut and paste, cyberspace, database, debug, default, delete, delivery,
   display, domain, download, drag and drop, e-mail, e-money, enter, entry, error,
   E-shop, exit, FAQ, feedback, file, fire wall, flame, flicker, floppy disk, folder, font,
   format, frame, freeze


これを見ても分かるとおり、英語嫌いのはずの日本人学生達でも、知らず知らずに数多くの“英単語”を身につけている。この事実は英語学習にも活用できるし、これをもって学生達を褒め、勇気づけることも大事である。

  A 学生達が不動産関連を学ぶ学生達であったので、日常的な生活英語で学生達の興味を引きそうな語句を特に紹介し、詳細を説明する。(授業参加への動機付けの1。) たとえば、第9ユニットの例が有益である。同ユニットには次のような文章が記載されており、テープにも録音されている(斜体字は私・山岸による)。   


   This is Oscar's house. Oscar is welcoming his friends Lynn and Tony at the front door.
   His sister Stella is washing the car. Mr. Gracia is in the kitchen. He's cooking dinner.
   Bobby and Maria, Oscar's brother and sister, are setting the table in the dining room.
   Mrs. Gracia is using the computer in the living room. There are three bedrooms, one full
   bath upstairs and a half-bath downstairs. It's a comfortable home.

 この文章に出てくる斜体字で示した語と、添えられたカラーによるイラストとを利用して、その舞台となっていると思われるアメリカ人家庭の家屋内の各室配置を考えさせたり、“house”と“home”の違いを辞書を使って調べさせたりした。特に後者(houseとhome)の場合、アメリカの不動産屋ではhouseよりもhomeが好まれる理由を教える。また、“full bath [bathroom]”(浴槽、シャワー、便器、洗面台の4点付き)と“half-bath [-bathroom]”(便器と洗面台付き)の違いも説明する。そこで、学生達に向かって、「アメリカなどの不動産広告に、With One and Half Bathroomとある場合、これはどんなことを広告しているものか」と尋ねて、彼らの理解度を確認する。学生達たちはこれらの説明に大きな興味を示した。
 また、寝室はふつう2階にあるので、I was upstairs in bed.と言えば、「2階の寝室でねていた」という意味になり、逆に階下のdining roomへ夕食に下りていくことをgo downstairs for dinnerと言うということなども教えた。また、英語(とりわけアメリカ英語)でI want to go to the bathroom.と言えば、「トイレに行きたい」という意味になること、さらに、armchair のイラストが利用できるので、英語には“an armchair traveler”〈書斎の旅人〉という表現があることを紹介した。これは「旅行記などを読んだり、旅行した人の話を聞いたりして楽しむことの好きな人」を指す言い方で、肘掛け椅子にゆったりと腰掛けている姿を想像することができるものであることを話して聞かせた。学生達はこの話にも大いに興味を示した。

 B 学生達にできるだけ頻繁に挙手させ、発言させる。挙手の回数は授業終了後、自己申告させる(1回、1点と換算)。
   これについては、特に後期に大きな成果を上げた(「まとめ」で記述)。

まとめ
 大切なことは、学生達に、日本人が日本文化の中で培われた日本語を母語としているように、英語圏の人々は、英語を母(国)語とし、それを用いて喜怒哀楽を表現し、生活をしていること、したがって、文化を反映していない言語など存在しないこと、換言すれば、人間が創り出した文化と彼らが話す言語とは表裏一体を成していて、本来それらは面白いものなのだ、ということを徹底的に実感させることであると思う。
 学生達の英語力に合わせて日本語を用いることが多かったが、週を追うごとに彼らの受講態度に変化が表れ、後期になると、ほとんどの者たちが積極的に挙手し、英語で発言する者も増えていった。前期に休みがちだった学生達数名が、後期に入ると欠席しなくなり、欠席したとしても、1、2回程度となった。A君は後期に30回、B君は25回、C君は22回ときわめて積極的に挙手し、英語または日本語で発言もしくは発表を行った。なかでもD君は42回という驚異的な回数を数えた。これは後期の授業回数13回であったから、1週の授業時間内で3.2回も挙手したことになる。最終授業で書いてもらった授業感想文には、次のような嬉しい言葉が並んでいた。         

「英語が少し好きになった。」
「もう一度英語をやり直す気になった。」
「こんなに面白い英語の授業を初めて受けた。」
「英語が前よりも少しよく聞き取れるようになった。」
「英語がこんなに面白いものだとは思いもしなかった。」
「アメリカの不動産業界で使われる語句の説明がいちばん面白かった。」
「不動産関係の英語のことは一生忘れないと思う。とにかく役に立った。」
「最初、こんな簡単な英語の教科書を使って何だと思ったが、そうではなかった。どんな簡単な英語の教科書でも、使い方でものすごい効果があるということがよく分かった。」
 

 教科書“を”教えることも大事であるが、教科書“で”教えることも同様に大事であると思う。学力不振者・意欲欠如[不足]者の多いクラスでの英語の授業の進め方の1つを私自身の経験に基づいて紹介してみた。