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9. 児童英語の指導方法
      
 ―個人的体験を通して

                                                                 
1.環境の問題
 私達は何かをすることで物事を学びます。日本の子供が日本語を聞いて話せるのは、子供自身が日本語を聞いて話すことを繰り返したからです。英語を通して日本語を学んだわけではありません。逆のことは英語を母語とする子供達にも言えます。
 と言うことは、英語を学ぶには、英語に触れる環境を多くする必要があります。子供は、あるモデルになる語・句・文を身に付けるまで、何度でも繰り返す必要があります。習慣になって口から出て来るまで繰り返すことが重要です。日本人児童の場合、母語である日本語の干渉を押さえ込むには、ネイティブ・スピーカーとの接触を多くする必要があります。諸事情で日本人が英語学習指導の中心になる場合でも、できるだけ英語らしい英語を自らが身に付け、それを用いて行なうようにする必要があります。
 私は長女が三歳半のころから、私の書斎ではできるだけ英語で意思疎通ができるような環境を作り出すように努力しました。その成果は、私が家族を連れてロンドン留学をした時に現れました。娘は5歳半になっていました。人工的な「英語環境」での娘の成果の一部は、小著 『イギリスの言葉と社会』(1984, こびあん書房)で、「娘の教育問題」(187-9頁)と題して紹介してあります。私は、四六時中英語で、という考えは採りません。娘が将来、自分自身の考えで英語を学ぶ必要性を感じるなら、その時はその時で、自らの「英語道(みち)」を歩むだろうから、学習の一環として英語に触れさせてやっておけばそれで良かろうという考えでした結果的には、中学時代から大学時代にかけて何度も英語弁論大会に出場し、優勝もしくは入賞を数多く果たし、その後、英語音声学に興味を持つに至って、ロンドン大学(UCL)大学院の音声学科で修士号を取得しました。当人に言わせれば、幼い頃の環境が影響を与えている由。長女と二歳離れた息子(弟)は、ロンドンに行ってから現地の小学校に入れてもらい、そこでかなり自由に英語を駆使するまでになりましたが、「英語道(みち)」には至りませんでした。
         
2.「アナログ情報」(analog information) と 「デジタル情報」(digital information)
 私達の脳は2種類の情報をキャッチします。1つは「アナログ情報」(analog information) と呼ばれるものであり、もう1つは「デジタル情報」(digital information)と呼ばれるものです。前者は私達が見たり、聞いたりするもの、すはわち五感を直接知覚できるものを言います。たとえば、幼児がイヌを目にした時、それを英語で何と言うのか分からなくても、それが何であるかは容易に知覚できます。いっぽう、単語や数字や記号などはデジタル情報です。それ自体には何の意味もありません。何か実際的なものの「代わり」として用いられているだけです。英語の“dog”は、したがって、デジタル情報です。この語は私達が「イヌ」と呼ぶ動物の格好などしていません。英語の“dog”が、私達が「イヌ」と呼ぶ動物であることを知らなければ、幼児はこの英語を何度聞いても、その意味を知ることは出来ません。
 ある語を「学ぶ」(learnする)ということは、私達の頭の中で、その特定の語を特定の意味や映像と結び付けることができるということです。こうすることによって、私達はその「語と意味の結び付き」を記憶しておいたり、思い出したり、それを使ったりすることができるようになるのです。
 私達が幼かった頃、親たちは「イヌ」の実物や、「イヌ」の絵・写真などを指差し、たいていは「イヌ」と声を出しながら、「イヌ」がどんな動物なのかを私達に教えてくれました。実際の音や絵や写真などに直結させることによって、私達は児童の頭の中に、「語と意味の結び付き」を定着させることができます。絵や写真は、いちいち説明したり訳したりしなくても、意味と音とを結び付けることができます。

3.できるだけ文字を見せないこと、音を繰り返すこと  
 ワープロのキーの打ち方を覚える場合、私達はできるだけそのキーを見ないのが良いのです。キーを見れば、かえって打ち方がぎこちなくなり、技術は上達しません。それと同様に、英語を教える場合、できるだけ文字を読ませないほうが良いのです。読む癖を付けてしまうと、話すことが上達しません。また、読むことによって、児童はそこに日本語的発音やイントネーションを持ち込みます。日本語を多用する先生や、児童に読むことを奨励する先生は、結果的に、児童が生きた英語を身に付けることを阻止することに力を貸しているのです先生は児童に、「英語に“ついて”教える」のではなく、「英語“そのもの”を教える」必要があります。使える言葉を教えなくてはなりません。
 私自身は、幼かった娘には、できるだけ絵本や写真集を見せながら、ゆっくり、はっきりと、(たとえばイヌを指差しながら)Dog. This is a dog. This is a dog, too. There are two dogs. Two dogs are in the garden.などと言いながら、映像と音とを結び付けさせ、しばらくしてから、What's this? Is this a cat or a dog? Yes [Good], it's a dog. などと続けました。とにかく、音声と映像を中心に、繰り返すことに最重点を置きました。

4.新しい文型の導入
 新しい文型を導入する場合、私は語・句・文を発音して行くのを聞かせながら、娘に絵や写真などを指差させました。私の音と、娘の手元にある絵や写真など(あるいは、そこに出て来る動物などの動作・行動)とを直結させることで、娘の頭の中には「語(句・文)と意味との結び付き」が出来、娘はあとで自分だけで音を再生することができるようになりました。理解し、吸収することは、音の再生に優先します。児童が頭の中に「語(句・文)と意味との結び付き」を定着させるまで、児童の音の再生を強制してはならないと思います。「語(句・文)と意味との結び付き」が定着しないうちから何度も音の再生を強制すると、かえって児童の学習が阻害される結果となるからです。普段聞き慣れない英語音をすぐに再生させられることは、児童の聴音能力を発達させることには繋がりません。
 新しい文型や練習問題を導入する場合、語・句・文は明瞭に発音する必要があります。正確に応答させるためには、正確なモデルを覚えさせる必要があります。児童には正確な英語を聞かせ、練習させ、身に付けさせるべきです。だれでも言語を覚える場合は、間違いを聞くことによってではなく、正確なものを聞くことによって達成するからです。
 私の場合、娘に1つ1つの絵や写真などを指差させ、最初の1、2回は私がそれらを発音して聞かせ、続いて、娘に1度、2度、3度とそれらを実際に発音させてみました。私が先に1語1語ゆっくり発音し、続いて、娘の発音に誤りがあれば、それを訂正してやりました。最初から、正確な発音を身に付けるようにしてやるべきですし、応答も明瞭に、大きな声で言わせました。児童のいい加減な発音をそのままにしておけば、あとで矯正が困難になるだけです。

5.力が付けばスピードアップ
 最大の効果を上げるには、パターンプラクティスは迅速に行なう必要があると思います。練習のスピードと学習効果の大きさとは関連性があるはずです。特に、児童が集中している時にそのことが言えると思います。私は、自分の書斎での娘とのやり取りは、相当に早口で行なうことが頻繁でした。子供の能力には驚くべきものがあり、私の早口にきちんと反応してくれました。
 とにかく、先生が示すモデルや合図になる言葉と、児童の反応とは、ちょうどピンポンをしている場合の打ち返しのように、迅速に行なわれる必要があります。モデルと合図になる言葉が力強ければ力強いほど、児童の反応も好調なものになると思います。
 日本人が指導する場合、語尾や文尾を弱く発音しがちなので、注意が必要です。日本人はむしろ誇張気味に、明瞭に大きく発音するぐらいでも良いと思います。そうすることで、児童の英語も力強いものになり、音も英語らしくなります。もちろん、時と場合によっては、ささやくように発音することも効果的でしょう。音の調子に教師の顔の表情や態度が関連していることを児童が学び取るからです。

6.指名はアットランダムに
 教室でかなりの人数の児童を相手にする場合、指名はアットランダムに行なうのが良いと思います。それによって、児童は、自分がいつ指名されるか分からないため、適度の緊張を強いられ、指名された場合に備えて、心の準備をしておこうと思うからです。こうすることによって児童は、「学んでいる」という実感を持つこともできます。ただし、絵や写真などが、番号順に並んでいて、それを教材にしているような場合、あちこちの番号に飛びながら、児童に何かを答えさせるというやり方は好ましくないと思います。そのようなことに対する児童の緊張は過度の緊張となって、学習上かえって逆効果を生むものと思われます。心の準備をさせる意味で、番号順に進めることが大事です。


7.児童を褒めること、勇気づけること 
 児童の間違いなどや言葉尻を捕らえて、非難めいた言葉を投げ掛けるのはタブーです。自信をなくさせ、やる気をくじき、成長を妨げるからです。一人一人を褒めて、勇気づけましょう。教師一人一人が、自分を児童の立場に立って考えてみればすぐにその理由が分かると思います。全員をほめましょう。しかし、もっと努力する児童はさらに褒めて下さい。児童同士による「あら捜し」は絶対にさせないようにする必要があります。児童は同じ間違いを何度も犯すものですし、自分達では訂正できないものです。にもかかわらず、児童が別の児童の間違いを訂正するというのは、心理学的に言っても、好ましいことではありません。児童が別の児童に訂正されて喜ぶということは、普通は考えられないことだと言えましょう。
 児童を教える場合、ただ優しい先生と言うよりも、きちんと教えることが児童の尊敬を勝ち得ると思います。児童は自分が成長するのに手を貸してくれる先生を尊敬するものです。児童の時間を無駄にするようでは、児童から尊敬されることも感謝されることもないでしょう。十分な練習をさせてもくれず、自分達の成長を促すこともしてくれない先生は、児童にとっては不満の種にしかなり得ないと思います。厳しくとも、教えるべきこと、学ばせるべきことをきちんと心得ていて、それを愛情とユーモアとに包んで教室に向う教師を、児童はちゃんと見ていて尊敬するものです。学習者としての児童の学習に動機付けをし、方向性を持たせ、力を尽くすことが肝要だと信じます。

8.まとめ
 (1)原則
    a.英語を使用し、日本語は最小限の使用に押さえる。
    b.次のことを念頭に置いておく。
      (a) 言語学習は具体的場面、具体的体験、楽しさ・知的興奮、動機・刺激などから成る。
      (b) 人間の脳は「アナログ情報」(analog information)と「デジタル情報」(digital information)の
         二種類の情報をとらえる。前者
は 「五感を通して直接知覚できるもの」であり、後者は
         単語・
数字・記号など、「それ自体は無意味か、何か実際的なものの代わりを成すもの」
         のことである。

 (2)児童英語の指導方法 
     児童に次のような指導を行なう。
      (a) 発音 (pronunciation)―特定の音(=語・句・文)を特定の意味や映像と結び付ける[付け
         させる]。したがって、文字はできる
だけ見せない。
      (b) 会話 (conversation) の場合も、できるだけ文字は見せずに、繰り返して音声で理解させ
         る。

      (c) 文型練習 (pattern pratice)―新しい文型を導入する場合、教師が語・句・文を発音して行
         くのを聞かせながら、児童に絵や
写真などを指差させる。語・句・文は明瞭に発音する。
      (d) 応用 (adaptation)―絵・写真などを見ながら、登場人物・動物などを適宜置き換えて練習。
         未使用の絵・写真などを見せて
今まで学んだことを応用して発言させる。
      (e) (b)の「会話」に自分[父母・兄弟姉妹・友人など] の名を入れて練習する。
      (f) 復習 (review)―既習事項を再利用することにより、定着度を高め、応用範囲の拡大を図る。

    ・(小学校低学年用英語辞書) http://www.gakken.co.jp/toshokan/study/index_n.html