15. 人生の道しるべとしての詩句       

      山岸 勝榮

Ella Wheeler Wilcox1850-1919)が書いた詩の一篇に The Wind of Fate (「運命の風」)というのがある。次のようなものだ。拙訳を添える。


One ship drives east and another drives west
With the self-same winds that blow;
'Tis the set of the sails
And not the gales
That tells them the way to go.

Like the winds of the sea are the winds of fate
As we voyage along through life;
'Tis the set of the soul
That decides its goal
And not the calm or the strife.

同じ風を受けていながら 
一隻の船は東に進み、
別の船は西に進む
行き先を決めるのは疾風
(はやて)ではない
それは帆の張り方なのだ

人生航路を進む時
運命の路は海風に似ている
ゴールを決めるのは 
(なぎ)でもなければ嵐でもない、
それは魂の構え方なのだ


 解説は不要だろうが、人生で大切な事は、要するに、「魂の構え方」なのだ。学生時代に初めて触れた一篇だが、当時、これを読んでハッとさせられた。もう一篇、同じく学生時代に知った詩に、R・W・Emerson (1803--82The Secrets of Success (「成功の秘訣」)というのがある。「成功」と言えば、私たちは、富や地位に恵まれることを連想しがちだ。ところが、エマソンのこの詩を読むと、「これなら私も『成功者』の一人になれそうだ」という思いを抱くことができる。同じく拙訳を添えて紹介する。


What is Success?
To laugh often and much;
To win the respect of intelligent people
and the affection of children;
To earn the appreciation of honest critics
and endure the betrayal of false friends;
To appreciate beauty;
To find the best in others;
To leave the world a bit better, whether by
a healthy child, a garden patch
or a redeemed social condition;
To know even one life has breathed
easier because you have lived;
This is to have succeeded.

成功とは何だろう。
しばしば、そしてたくさん笑うこと、
知的な人々に尊敬され、子どもたちから愛されること、
正直な批評をしてくれる人に評価され、偽りの友の裏切りに耐えること、
美しいものを理解し、 他者には最良なるところを見つけ、
死ぬまでに、健全な子を一人でも 小さな花園を一つでも残したり、
社会の条件をわずかでも改良したりして、 世界をほんの少しでも良いものにすること、
あなたがいてくれたお陰で心安らかにいられたという人を一人でも知ること、
これが成功したということなのです



 私は英語の教師であるから、英語圏の詩人(両者共アメリカ人)のものに触れる機会が多いが、私たちの周辺には、こうした「人生の道しるべ」になり得る文句を探すことのできる詩や名言の類いが数多くある。ちなみに、かのドイツの詩人・ゲーテも、「偉大とは、正しく平凡な生活を営むことである」と言っている。本学(明海大学)の卒業生諸君には、折に触れてこうしたものに出合い、「帆の張り方」を工夫したり修正したりする時の「よすが」にしてほしい。