]]V オランダを貶(おとし)める英語表現
go Dutchが「割り勘にする(to pay one’s own way)」、Dutch treat が「割り勘 (an occasion when you share the cost of something such as a meal in a restaurant)」もしくは「ランチ (lunch)」、すなわち「偽りの歓待 (a false treat)」、to get one’s Dutch up が「腹を立てる 、カッとなる (to get angry, to lose one's temper)」の意味だということを知ったのはいつ頃のことだっただろうか。多分、大学3、4年生の頃だっただろう。
周知のように、イギリス(正確にはイングランド)とオランダは長い間、海洋・陸上でその覇(は)を競っていた。そんなことから、イギリスは言語上でもできるだけ頻繁にオランダを貶める[嘲笑する]ような言い方をした。上掲の数例はその一部である。
つい面白がって上掲のような慣用句になったものを拾い出して覚えた。その他、私が知る限りのものを列挙すれば、次のようになる。
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Do a Dutch ― トンずらする;自殺する。
Dutch Alps ― 「オランダ・アルプス」、(女性の)小さな[貧弱な]胸。
Dutch bargain ― 片方だけに利益が出るような、不公平な商売。
Dutch bath ― スポンジを使って、ちょこちょこと体を洗うような、入浴にならない入浴。
Dutch borrower ― 借りたものを返さない借り手。
Dutch bicycle ― 性的に用心深く、慎重な ★この反対が town bicycle。“She’s
the town bicycle, everyone gets a ride.”(彼女は性的にルーズだから、だれにでも乗れる)のように用いる。
Dutch [Dutchman's] cape ―「オランダ(人)の岬」、蜃気楼、幻影。
Dutch concert ― へたな演奏、耳障りな音。
Dutch cough ―「オランダ人の咳」、屁(へ)。
Dutch courage ― 酒の上のカラ元気、酒を飲まないと出ない勇気。
Dutch day off― 日常の(こまごまとした[つまらない])家庭仕事;"take [have] a Dutch day off "と言えば「そういう仕事を(楽しんで)するために休みをとる」の意。
Dutch defense ― 退却、後退。
Dutch door ― バイセックシュアル、"両刀使い" 【本来の意味は「上下二段式ドア」。17世紀のオランダで考案されたもので、多くは牧場の納屋のドアとして用いられ、上半分は通気のために開けておき、下半分は中の動物(とりわけ馬)が外へ出ないように閉めておく。また、住宅の場合、屋外の動物、落ち葉、木くずなどが入らないように、あるいは家の中にいるペットがむやみに外に出ないように、閉めっぱなしにしておく。】
Dutch ear ―ひどい歌声や音楽を楽しめる[がまんできる]耳;"have a Dutch ear"と言えば、「そういう耳を持っている」 の意。
Dutch girl ― レズビアン。
Dutch gold ― 銅と亜鉛[真鍮]の合金;安っぽい、イミテーションの金。
Dutch headache ― 二日酔い
Dutch husband― 通例、細長い、円筒形の抱き枕;Dutch wifeの女性版。
Dutch lightning― 保険金目当ての自宅放火。
Dutch luck ― 不運、悪運; 身に余る幸運、こぼれ幸い。
Dutch milk― ビール。
Dutch party ― 客が飲食物を持ち寄らなければならないようなケチなパーティー。
Dutch rider― (自分の車には乗らずに) 他人の車に便乗するしみったれ。
Dutch sea wife―Dutch wife に同じ。
Dutch steak ―「オランダの(お粗末な)ステーキ」、ハンバーガー。
Dutch wallet ―「オランダ(人)の財布」、ケチ。be [have] a real Dutch wallet (本物のケチだ)のように用いる。
Dutch widow ―売春婦。
Dutch wife ―売春婦;「オランダ人の妻」、「ダッチワイフ」、「セックスドール」。
I'm a Dutchman if I do. ―「そんなことをするぐらいなら俺はオランダ人になってやる。」【強い否定 (a strong refusal)を表す】
It not, I'm a Dutchman.― 「もしやらないなら俺はオランダ人になってもよい。」【堅い決意 (a firm decision)を表す】
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オランダを貶めるような、慣用句となった英語表現で、私がすぐに思い出せるものを挙げたが、これらを見ても、イギリスがいかにオランダを敵視・蔑視・嘲笑したかが分かるであろう(中には、アメリカ起源のものがあるかも知れない;未調査)。もちろん、オランダもイギリスに対して同じようなことをした。この点も調べればすぐにわかることだ。現代では、上掲の慣用句のほとんどは「蔑称」(derogatory
terms) 、「差別用語」(discriminatory terms) と認識されているが、言語史の一部としてははなはだ面白い。