[ ビジネス英会話のキーポイント(2)
引き続き、ビジネス英会話の基本について述べていく。今回使用する文例は、筆者監修による『研究社キャニング・テープ ― ビジネスピープルの英会話』(全6巻)からのものである(なお、【 】内の数字は前者が巻数、後者が頁数を示す)。
Point 4 テキパキと、しかし誠意をこめて応答せよ
何事においても、時間の無駄使いは避けなければならない。英語を母語あるいは母国語とする人々とのビジネス交渉においては、特にそのことが言える。彼らは、日本人にありがちな、交渉に入る前に、“一席設けて”などというようなことさえ、時間の無駄だと考える傾向が強い。彼らのために
“一席設ける” のならば、交渉が成立した暁にその“祝賀”として設けたほうが良い。
とにかく、ビジネス英会話においては、相手の発言や質問に対してはテキパキと、しかし誠意をこめて応答することが肝要である。その点では次のDialogue 1【1:22】には、軽快な話の流れ、リズム、話者の誠意、熱意が感じ取れる。初級学習者は、このような対話例をできるだけ多数、テープで聞いて、音のリズムや抑揚などの自然さを体得するようにしたい。
Dialogue 1
Sue: Hello, Stewart. How are you?
Stewart: Fine, thanks. It's nice to see you again
Sue: Nice to see you too. I'm a bit short of time, I'm afraid.
Stewart: I won't keep you long., then. I'll come straight
to the point.
Sue: OK. What can I do for you?
Stewart: I've brought you an idea which I'm sure you're
going to like. It's a home laser kit.
Sue: You must be joking!
Stewart: No, I'm not. Would you like to have a look at this
for a moment?
Sue: (turning the pages ) How much is it going to cost?
Stewart: We estimate we need £2,000,000 at the most.
Sue: That's a lot of money!
Stewart: Yes, but we're on to a winner here.
上の Stewart の応答のうち、特に、It's nice to see you again., I won't
keep you long,......, which I'm sure you're going to like.という言い方には、聞き手に安心感や期待感を持たせる響きがある。しかも、最後の、We're
on to a winner (成功は間違いないと思う)という言い方には、ビジネスマンとしての Stewart の自信が感じられ、大いに好感が持てる。
ところが、Stewart が、もしも次のように応答したとしたら、聞き手である
Sue の反応はどう変化するであろうか。おそらく、同じく、次のように、どこかぎこちない、不自然なものになるはずである。
Sue: Hello, Stewart. How are you?
Stewart: OK.
Sue: I'm a bit short of time, I'm afraid.
Stewart: Uh-huh. I've brought you an idea. It's a home laser kit.
Sue: You must be joking!
Stewart: No, I'm not. Just read this report.
Sue: How much is it going to cost?
Stewart: It could be as much as £2,000,000.
Sue: That's a lot of money!
Stewart: Yes, but it might sell.
上の対話(筆者によるアレンジ)における Stewart の応答は、明らかに “ぶっきらぼう”(blunt)であり、
“そっけない”(curt)ものになっている。日本人の初級ビジネスピープルには、こうした応答をする人々が少なくないようである。
Point 5 パターンで覚えられるものはパターンで覚えよ
中学・高校でよくやられるものにpattern practiceがあるが、ビジネス英会話に馴染むには、この pattern
practiceがきわめて有効である。たとえば、I'm sorry to call you so late.(こんなにおそく電話をして申し訳ありません【2:9】)における I'm sorry
to...を用いて、
a1) I'm sorry to arrive so early. 【2:9】
a2) I'm sorry to keep you waiting. 【2:9】
a3) I'm sorry to disturb you. 【2:9】
などのように、to以下を入れ替えて、さまざまな場面に応用できる英文を作成してみるとよい。そうすれば、I'm sorry to....という構文は確実に習得できるはずである。あるいは、また、
b1) Does that mean you're going to move ? 【3:12】
b2) Does that mean you're going to give up ? 【3:12】
b3) Does that mean you're going to leave ? 【3:12】
* * *
c1) I bet you miss your plane. 【3:14】
c2) I bet you lose your money. 【3:14】
c3) I bet you have an accident. 【3:14】
* * *
d1) If I were you, I'd try another doctor. 【3:17】
d2) If I were you, I'd try another dentist. 【3:17】
d3) If I were you, I'd try another electrician. 【3:17】
* * *
e1) I could do with a shower. 【4:14】
e2) I could do with something to eat. 【4:14】
e3) I could do with a break. 【4:14】
などのように、言い換えを行なって、Does that mean〜? (〜ということですか)、I
bet you〜 (きっと〜ですよ)、If I were you, I'd try another〜.(私があなたなら、別の〜を試してみますが)、Tcould
do with 〜(〜が欲しいところです)というような表現を確実に習得するようにしたい。これらのパターンがほとんど無意識に口を突いて出て来るようになればしめたものである。
Point 6 分からなければ、何度でも相手に開け
日本人は一舵的に言って、相手に聞き返すことを好まない。その行為が、何か失礼なことのように感じられるからであろう。しかし、ことビジネス交渉に関しては、相手の言ったことが分からなかったり、聞き落としたりした場合には、何度でも聞き返して、誤解のないようにしておくべきである。話したことの全てが、自分が属する組織の利害に直結することであるから、あとで、「私はそうは理解していなかった」「私はそう言われたとは思っていなかった」では済まなくなる。少なくとも、以下に示すような聞き返し方ぐらいは、ごくスムーズにできるようにしておきたい。
● I'm sorry. Could you speak more slowly? 【5:37】
● Er...... What do you mean by “compatible”? 【5:37】
● Could you repeat that, please? 【5:37】
● I'm sorry. What does “flexible” mean? 【5:37】
● I'm afraid I didn't understand that..【5:38】
● I didn't quite catch that. Could you speak up?
【5:38】
●Could I just check that I've understood? 【5:38】
●Er...... Could you spell that? 【 5:38】
参考までに言えば、以上のうち、第5文における I'm afraidは、どちらかと言えば英国英語的であり、米国英語では多用されない。He didn't explain it very clearly, I'm afraid. あるいは、I'm afraid I have to ask you about your age.のような文においても、まは使用しないのが普通である。したがって、たとえば、「今朝はあまり調子がよくない」という日本語も、英国英語では、I'm afraid I'm not very organized this morning.と言うほうが自然であるし、また、米国英語では、単に、I'm not very
much organized this morning.と言うほうが、より普通である。
いずれにせよ、ビジネス会話では、“曖昧”は厳禁である。納得のいくまで、何度でも、きちんと質問をする習慣を身に付けたい。
Point 7 わいせつ語や不敬語は用いるな
最近の若い日本人の中には、マスコミその他の影響であろうが、常識をわきまえている英語国民ならばけっしてロにしないようなわいせつ語(いわゆる“四文字言葉”が多い)や、宗教に閑孫した不敬語【冒とく語】を平気で口にしたり、書いたりする人々が少なくないが、ビジネスピープル、とりわけ初級者、中級者は、断じて避けるべきである。
ただし、強意構文「疑問詞+on earth......?」における“on earth”は、それらとは無関係であり、会話をイキイキとさせるためには有用なものであるから、多くの使用例に触れて、実感を得ておくとよい。次のDialogue(【6:22】)はその適切な使用例である。
Dialogue 1
Ted: Hello, John.
John: Hello, Ted. Look at this.
Ted: What on earth is it?
John: It's an old wristwatch television.
Ted: Does it work?
John: I'm afraid not.
Ted: Don't you think you should repair it?
John: Perhaps. But I'm not doing it myself.
Ted: Well、take it to a shop, then.
John: No, it's bound to go wrong again.
Ted: Let me have a look at it.
John: OK, but make sure you don’t ruin it.
That's a valuable antique.
この “on earth”も、Who on earth is going to buy it at £160? 【6:12】、 Where on earth is it?【6:12】、Whyon earth did he do that?【6:12】、Well, howon earth did he get here?【6:13】といったようにいろいろと応用できるようにしたいものである。
おわりに
以上が、ビジネス英会話の最低限の基本である。今回の引例の元になった『研究社キャニング・テープ ― ビジネスピープルの英会話』は中級者を対象としたビジネス英会話教本であるが、基本的な事柄についても広くカバーしており、前稿で使用した初級者用教本と併せて利用すれば、ビジネス英語の基本はすべて確実に習得できるはずである。
【本稿は、「時事英語研究」誌(研究社出版、1992、3)に寄稿したものに一部加除修正を施したものである】