XIII  英和辞典の用例の重要性


「くすくす笑って」、「くすくす笑いながら」という意味を表す慣用句は with a giggle だ。手元の某英和大辞典を見ると、「She clothed her dislike of him with a giggle. 彼女は彼に対する嫌悪をくすくす笑ってごまかした」という用例があがっている。また、私が編纂した英和辞典には「She showed her boyfriend her baby photos with a giggle. 彼女はくすくす笑いながら自分が赤ちゃんのときの写真を彼氏に見せた」という用例が収録してある。名詞としての giggle には普通は「くすくす笑い」という訳語が添えられているが、このような具体的な用例を示されると、その語・句が持つイメージがより鮮明になる。ただし、最初の用例である「She clothed her dislike of him with a giggle. 彼女は彼に対する嫌悪をくすくす笑ってごまかした」からは具体的なイメージを思い浮かべることが困難だと言う人がいるだろう。「彼に対する嫌悪をくすくす笑ってごまかす」という訳文がどういう状況を指して言っているのかが判然としないからだ。私もそう思う。これが「くすくす笑ってごまかした」ではなく、ただの「笑ってごまかした」ならおかしさは消えて、自然に響く。
  それに対して自賛になるが、2番目の用例からは、with a giggle が持つイメージが明確に浮かび上がってくるだろう。「なるほど、with a giggle とはこういう用い方をするのか」ということがよくわかるからだ。具体的な笑い方は上掲の画像がよく教えてくれる。
 用例は辞書の血であり肉である。だから、意味・用法が明確にわかるものを多く盛り込むことが大事だ。諸所で言っているように、私が「辞書用例学」(Ipsology)を提唱する理由だ。