10.『マクミラン英語辞典』(2002)の押さえどころ 
         ―現代英語の最重要情報を収録した辞典


 編集主幹のMichael Rundell 氏が、近い将来マクミラン社から外国人のための英語辞典を出す予定なので、日本人辞書編纂家としてのあなたの意見を聞かせて欲しいと連絡して来られたのは2年前の早春だったと思う。先頃その辞典が刊行された。Macmillan English Dictionary  (2002)がそれであり、予想通りの良書である。収録見出し語総数は10万語と言うから、学習英英辞典としては最大級のものである。見出し語のうち、話したり書いたりする際に最低限必要とされる高頻度の7500語を赤字で示し、それらを使用頻度によって星印で3段階に区別している(★★★最基本語2000語、基本語3000★★、準基本語2500語★)。
 本書の一大特徴は
monolingual learner's dictionary (1言語学習辞典)編集上の技術と、認知言語学・語用論・談話分析・コーパス言語学など、言語学諸分野の最近の成果をうまく融合させたことである。そのことを如実に示すのが本書の中ほどに設けられた LANGUAGE AWARENESS と題された1章である。そこには Numbers,  Phrasal Verbs, Academic Writing, College Composition, Metaphor, Computer Words, Pragmatics,   Spoken Discourse, Sensitivity: Avoiding Offense,  American and British English, Business  English,  Word Formation と銘打った頁が用意してあり、上記した編纂技術と言語学的成果が簡単明瞭に解説されている。

 本書を最大限に活用しようという利用者にはLANGUAGE AWARENESS は必読箇所である。特に本書だけの特色である、metaphor (隠喩表現)の取り扱いと、Academic Writing (論文作成)のための情報の取り扱いに関しては、同所でその概略を掴んでおくことをお勧めする。前者の具体例として、たとえば money の項を見ると、お金にまつわる隠喩表現を用例付きで解説しており、後者の具体例として、たとえばsignificant を見ると、論文作成の際に論文を有価値的であることを読者に印象付け、説得力のあるものにするためにはどのような表現を用いれば良いか、その反対に、何かが無意味なものであることを訴えるにはどのように表現するのが効果的かなどが分かりやすく書かれている。説得力のある論文・英文を書きたい人には必読箇所であろう。 
 語法解説の分り易さも本書の特色である。たとえば、unableを見ると
unable to  do... がフォーマルな言い方であって、一般の会話では can't do...のほうが普通であることを教えてくれる。また、disabled を見ると、身体障害に関連した諸表現の適切性・不適切性を要領良く教えてくれる(差別用語に関しては上記 LANGUAGE AWARENESS Sensitivity: Avoiding Offenseに解説がある)。後発辞典の特権と言えばそれまでであるが、他書よりもまとめ方が巧みであるように思う。

【本稿は「週間読書人」(2002/5/3)に寄稿したもので、一部表記を変更しました】