18.「紙の辞書」と「電子辞書」の違い
      ―大学生はどう捉えているか        


 
明海大学における私の担当科目の1つに英語学特講V(3,4年生対象)があり、本年度(平成16年[2004年]度)も前期に『スーパー・アンカー英和辞典』(第3版;学習研究社刊)を使用して英語辞書論考(「英和」編)を行った。受講者数は39名であった。前期授業の終わる日に、受講生に対して私は、「平素電子辞書を使用している諸君は、レポート(各人が行ったプレゼンテーションのまとめ)の末尾に、紙の辞書との比較を少し書いておいてほしい」と依頼した。次に示すものがその一部である【転載にあたっては受講生の了解を得ている】。誤解ではないかと思われる点も含まれているが、ユーザーとしての大学生が両者をどのように捉えているかを知る上で大いに有益であるので、当該箇所をそのまま転写する(ただし、辞典名表記は『スーパー・アンカー英和辞典』に統一した)。【なお、電子辞書に関しては、関山健治氏のサイトが詳しい。】


■さて、最近では学生の間に電子辞書が普及してきています。電子辞書は軽量で、持ち運びが楽であり且つ調べたい言葉を打ち込むだけでそスーパーアンカー英和辞典の意味が表示されるので便利であることは確かです。私も1台所有していますが、外国人の先生とお話している際に、分からなくなってしまった単語を調べたい時などの咄嗟の場面では大変便利であると思います。しかし電子辞書の利点はまさにその「軽量」ということと「咄嗟の場面での即時性」のみといっても過言ではなく、英語の学習に関して言えば、必ずしも便利であるとは言い切れない事もまた事実であると思います。
 まず電子辞書では収容量に限りがあるということが難点です。軽量化に軽量化を重ねた電子辞書では、どうしても紙の辞書に勝る情報の収容は難しいと思います。例えば『スーパー・アンカー英和辞典』に載せられているような「日英比較」や「ことわざの極意」「コロケーション」「英文化のキーワード」などのセクションは、電子辞書にするとどうしても削除されてしまうセクションだと思います。電子辞書ではどうしても文法上の事柄が重視さる傾向にあるためです。しかし言語を学ぶ時に本当に重要な事柄は、実はそういった「言葉の表面上の意味」「文法」の枠を超えた文化に関わる事柄の解説にこそ記されているのではないでしょうか。
 また、電子辞書は画面の大きさにも限りがあるため、1度で目に入る情報にも限りがあります。スクロールしなければ画面が動かないためにそれを怠ってしまいがちになり、そうすると限定された最小限の情報しか得られないのではないしょうか。
 また、紙の辞書は「自分は今学んでいる」という充実感を得られるようにも思います。そこだけに満足してしまっては元も子もありませんが、「学ぶ」ということには、それに伴う充実感が得られるという事も大切なのではないかと思います。
 電子辞書の方が紙の辞書よりも優れている、紙の辞書の方が電子辞書よりも優れている、と一概に決め付けることはもちろん出来ません。しかし私個人の印象では、最近の学生の間ではどうしても持ち運びや即時性の便宜だけを重視して電子辞書が重宝がられているように思えてならないのです。
 本来ならば、電子辞書と紙の辞書は使用する目的が異なっているように思います。その場その場の用途に合った辞書の使い分けをする事が必要なのではないでしょうか。(3年、遠藤千尋)

■現在は電子辞書を用いて英語学習をしている学生が多い。高校生でも電子辞書を持っている生徒が多いように思う。私も電子辞書を持ち歩いている学生の一人であり、電子辞書と紙の辞書はほぼ同じものであると考えてきた。しかし、今回のプレゼンテーションをするにあたり、『スーパー・アンカー英和辞典』を読んでいて、電子辞書と紙の辞書というのは全く異なるものであると実感した。今回、私が取り上げた2組の助動詞はどちらも、表を用いてそれぞれの表現に含まれ 5 る意味の違いについて説明されていたが、これは紙の辞書でなければ見ることができないものである。また、発表の中では取り上げなかったが、単語によっては図や絵が載せられているものもある。しかし、これらもまた電子辞書では見ることができないのである。もう1つの電子辞書と大きく異なる点として、一覧性が挙げられる。電子辞書を用いているときには気に留めていなかったが、電子辞書は1つの単語にどのような意味があるかを調べるのにも画面をスクロールする必要がある。ところが、紙の辞書であれば調べたい単語のページを開いてすぐに、どのような意味を持つのか、またどのような例文の中で使われるのかということが分かるのである。助動詞の説明の際に辞書の中からいくつか例文を用いたが、そこからも分かるように、辞書に載せられている例文を見れば表で確認したニュアンスの違いがより分かりやすくなる。確かに電子辞書は持ち運びに便利であるし、紙の辞書を引くことに慣れていない学習者にとっては、調べたい単語がすぐに見つけられると言えるのかもしれない。しかし、一旦、紙の辞書を引くことに慣れてしまえば、スクロールしなければ全ての意味を確認することができない電子辞書を引くよりも速く、調べたい事柄にたどり着けるはずである。
 アルバイト先の塾で私が担当している生徒も電子辞書を使っているが、今までは授業中に電子辞書を使っているところを目にしても、特に辞書指導をすることもなかった。今後は紙の辞書との違いをしっかり説明し、少しでも多くの生徒に紙の辞書を使うことの大切さを理解してほしいと思う。そして、英語という言語をただの受験科目としてではなく、異文化の相違に興味を持つきっかけとして学んでほしいと思う。(3年、大塚有紗)

■今日では、電子辞書が普及してきているため、本型の辞書は存在がうすくなってきていますが、本の辞書にもいろいろといいところはたくさんあります。まず、電子辞書は軽い、荷物にならないというメリットがありますが、調べたい単語があると、その単語しか表示されないということが多いです。その単語からつながる関連語・対義語・類義語などは詳しくは表示されないことと思います。本の辞書は重いという欠点はありますが、1ページ開くと見開きのページの中にたくさんの単語が一気にみれるということと、重要な単語には紅い文字・大きな文字で記されていることや、会話文の表示、語法の開設などが詳しくのっています。電子辞書では実現できないことです。また『スーパー・アンカー英和辞典』には「日英比較」といった文化の違いを勉強することが出来るので、海外にいったときに恥をかかなくてもすみます。軽く普通に単語を調べるといったことであれば電子辞書でも充分だとおもいますが、私達英米語を専攻している者にとっては本の辞書を持ち歩きひとつのたんごからひとつの意味を見出すのではなくそこから広がる関連性をもつことが必要なんだなと思いました。(3年、祝田里美)

■電子辞書はかさばらず、持ち運びにはとても便利だが、『スーパー・アンカー英和辞典』のほうが、ひとつの単語と他の単語との結びつきが強いため、次々に新しい単語を知る事ができる。類語や反対語、参考にすべき単語がたくさん載っているため、他の単語との関係を理解しながら多くの単語を学ぶ事ができる。絵もたくさん使われているので、印象に残りやすく、また、わかりやすい。日英比較では日本と英語圏の文化の違いを学びながら、単語との結びつきを考え、理解する事ができる。色分けや文字の太さも使い分けているので、重要なポイントをおさえやすく、また、見やすいと思った。他社の辞書と比べても、文化や宗教を学びながら単語を覚える事ができ、使いやすいように思う。これからもこの『スーパー・アンカー英和辞典』を利用し続けたい。そして、この辞書を使って英語の力をのばしていきたい。
 前期の発表を通して、他人にものを教えるということの難しさと、その為には自分自身が伝えたい事柄について深く理解していないといけないのだということに気づかされた。また、人の前で話をするときは言葉遣いや仕草などにも注意を払わなくてはならない。普段の自分の語彙の少なさ、丁寧な言葉の使い方の不慣れさを改めて実感でき、見直そうと思えるよい機会になったと思う。(3年、町山茉莉江)

■電子辞書との相違を考えてみたとき、語彙の多さや持ち運び易さはありますが。次の点で紙の辞書が優れていると思います。
     @ 朱書されているので、優先順位が一目瞭然である。
     A 写真、イラストで視覚的に理解しやすい。
     B 同時に例文が見られる。
     C 語彙レベル、文法レベル、文化レベルなどの比較が表になっていて分かりやすい。
 翻訳という作業をするときに、辞書の良し悪しは質の良し悪しに大きく影響すると思います。知っている単語でも文脈にそって訳語を考えるとき辞書の例文を参考にしなければなりません。辞書が第一の友と考えても言い過ぎではないと思います。(4年、大久保久江)

紙の辞書の利点
   ・
情報量が電子辞書に比べて多い。
   ・
文化的背景なども同時に見ることができる。
   ・
そのときに引いた単語に様々な品詞の形がある場合、同時に間接視野に入ってくる。
   ・
電子辞書と違って電池切れがない。(ページが破けない限り半永久的に使える)
 紙の辞書の難点

   ・
持ち運ぶのにはかさばる。

   ・
持ち運ぶのには重い。
   ・
単語のページを開くのに時間がかかる。
  電子辞書の利点
   ・
持ち運びが便利である。

   ・
電子辞書ひとつで色々な辞書も持ち運んでいることになり、調べたいときにその用途に合わせて辞書を変えることができる。
   ・
スペルを打ち込むだけですぐに調べたい単語のところへ飛べる。
 電子辞書の難点
   ・
電池が切れると使えなくなる。
   ・
下に落としたり強い衝撃を与えたりすると壊れてしまう。(4年、池端雅樹)

■普段は電子辞書を使っているのですが、それでは調べる時間や便利さの面では有利ですが、どの単語が重要でよく使われるのか、具体的な例や図などを見ることはできませんでした。また、電子辞書では省略されて収録されていることもあり、それでは英語を専門的に学ぶには役に立ちません。実際、他の授業での課題をするときに、電子辞書では見つけることができなかった意味や表現を『スーパー・アンカー英和辞典』で調べたら、いくつも見つけることができました。これを機会に、普段から、分厚くて重いこの辞書を使ってみようと思います。(4年、舩野静江)

どこで電子辞書が勝っているのか。
     ・ 持ち運びが楽(軽い)
     ・ 調べるのに時間がかからない
     ・ ひとつの辞書の中に色々な種類の辞書が入っている
     ・ ジャンプ機能が便利

  どこで紙の辞書が勝っているのか。
    
・ 色々な詳しい情報がたくさん収録されている
     ・ ページ送りしなくて済む為に一度に多くの情報が読める
     ・ イラストがあって理解しやすい
     ・ 電池が必要なく半永久的に使用出来る
     ・ リサイクル出来る
     ・ 電磁波を浴びない
     ・ メモ書きをする事が出来る

 高校時代に初めて電子辞書を手にしましたが、やはりその当時の英語の先生もあまり勧めていなかった事を今になって思い出しました。確かに紙の辞書に比べて軽いし、迅速性はあると思いますが、情報量では比較にならないという事が、スーパーアンカーを手に取ってみて改めて感じられました。他の英和辞書には載っていない情報から文化の違いが良く理解でき、益々英語の深さが実感出来たと思います。(4年、栗田美里)

■まず電子辞書にはない日英比較があること。紙の辞書ではたくさんの意味や使い方があるが、電子辞書には一般的な使い方しか載っていないです。発見ができない。電子辞書を使っていれば視野も狭くなると思います。その点紙の辞書は情報が豊富でたくさん発見ができます。それは授業の中での発表でわかりました。 
 また、電子辞書では単語の使い方に困るときがあります。例えば、“I don’t like blue jokes.”という文を日本語に直せというのがあったとします。私は、「私は青いジョークは嫌いだ」と訳すと思います。でもこの文の本当の意味は「私はエッチなジョークは嫌いだ」です。そこで紙の辞書と電子辞書で、“blue”を調べてみると、電子辞書ではただ意味として「エッチな、エロの」としか書いてありませんでした。どういう時に使うなど、日英比較で、相手に不快な思いをさせてしまうなど載っていませんでした。紙の辞書には、例文がきちんと載っていて、どの単語を使って訳せばいいのか、一目でわかります。日英比較をさらに読めばもっとわかります。
 その他には、電子辞書は値段が高いです。新しい物をすぐ買えません。例えば、大学入学のときに電子辞書を購入したら、それが壊れるまで使うと思います。つまり、ずっと古い物を使うと思います。先生は前に「辞書は新しい物を使った方がいい。」とおっしゃっていました。紙の辞書は3千円くらいで、新しい辞書を購入できます。電子辞書が約4万円だとすると約13冊新しい辞書が買えます。お得です。紙の辞書の弱点は、持ち運びに不便なところです。私はよく電子辞書を旅行に持っていきます。英会話の機能があるのでとても便利です。すぐバックから取り出せます。また、電子辞書にはたくさんの機能がついています。英和、和英の他に漢字や広辞苑、上にも書きましたが、英会話などついていてとても便利です。紙の辞書にもちょっとした旅行などでつかえる英会話なども載せて欲しいと思いました。また、字が小さいのも弱点だと思いました。お年寄りなんかはやはり文字が大きく変換できる機能のある電子辞書を使ってしまうでしょう。だからといって字を大きくしてしまっても単語数が減ってしまったりかかえる問題は無限にあると思いました。(4年、細田雅子)

(電子辞書)
     ◎  持ち運びに便利である。
     ◎  単語を入力するだけなので、短時間で調べられる。
     ◎  1つの電子辞書に、英和・和英・英英などたくさんの辞書が入っている。
     ◎  スペルチェック、キーワード検索など便利な機能がある。
     × 落としたり、ぶつけたりすると壊れる。
     × ボタン操作しないと一部しか見られない。
     × 電池が必要なので切れると使えない。
 (紙の辞書)

     ◎ 重要な語は、太字&カラーになっているので目につく。
     ◎ 絵や図などが載っているのでわかりやすい。
     ◎ 1つの語を調べるだけで、そのページにある他の語にも目がいく。
     ◎ 自分で辞書に書き込みができる。
     ◎ 電子機器ではないので壊れない。
     ◎ 情報量が豊富。
     ◎ リサイクルできる。
     × 慣れていないと、調べるのに時間がかかる。
     × 重い。持ち運び不便。 

 以上のことが、私が考えたことです。総合的にはどちらも、利点・不利点同じくらいあり、私の考えでは両方持っていて時と場合に応じて使い分けるのがいいとおもいます。(4年、深山美奈子)


期末試験時の電子辞書利用率(辞書使用可)
 平成16年[2004年]7月12日に実施した明海大学外国語学部英米語学科「対照言語研究」期末試験時の電子辞書使用率と、同年7月13日に実施した関東学院大学文学部英語英米文学科 「Translation」期末試験時の電子辞書使用率とをチェックしてみた。以下がその実態である。

明海大学外国語学部英米語学科「対照言語研究」(2、3、4年生対象)
受験者数   80名
電子辞書のみ使用  61名  (76.25%)
紙の辞書のみ使用      5名 ( 6.25%)
両方の辞書を使用     1名  ( 1.25%)
両方とも不所持  13名   (16.25%)











(「両方とも不所持」の受験者生が13名もいるが、これらの学生は平素欠席勝ちな諸君で、期末試験に関して私が出した「辞書使用可」の指示を聞いていなかったものと思われる。)

関東学院大学文学部英語英米文学科 「Translation」(3、4年生対象)
受験者数  59名
電子辞書のみ使用  51名 (86.44%)
紙の辞書のみ使用   7名 (11.86%)
両方の辞書を使用   8名 (13.55%)
両方とも不所持   1名  ( 1.69%)

追記:ある大型書店が行っている電子辞書の宣伝の中に、その簡便さを宣伝する意図からであろうが、「いちいち開くのが煩わしい」というキャプションと共に、紙の辞書を投げ捨てているイラストがある。何も「投げ捨てる」ようなイラストを添える必要などないであろう。両者のどこが長所で、どこが短所(あるいは弱点)かという点に言及すればそれでよいことである。何事にも両面があるのだから。